- #1
- #2
Number ExBACK NUMBER
“茶髪にグラサンで区間賞”箱根駅伝の異端児・徳本一善が経験した大炎上「批判が半端なくて、非国民みたいになりました」
posted2022/01/01 11:05
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Mutsumi Tabuchi
ドンドンドン。何やら音が響いてきた。時計の針は午前2時を回ろうとしている。
「うっさいな。なんの音だ、これ」
駿河台大駅伝部の監督を務める徳本一善は部員たちと同じ寮に住み、一人部屋ながら二段ベッドの下は荷物置き、上を寝床にしていた。天井が近いから上階の音はよく聞こえる。
耳をすませてみると何やら人の動く気配がする。まだ誰か起きてんだな。消灯時間はとっくに過ぎてるはずなのに。眉をひそめた徳本はむくっと体を起こし、二段ベッドから降りると、自室を出て階段を上がっていった。そして上階の部屋の前に立つと、がちゃんと思い切りドアを開けた。
中にいたのは4年生の部員たちだった。突然の監督の登場に恐れおののいた表情の中から徳本はキャプテンの阪本大貴の姿を見つけて声を荒げた。
「お前! 何考えてんだ、このやろう!!」
徳本ははじめから阪本はキャプテン向きの選手ではないと考えていた。1年の頃からずっと怒られてばかりで、むしろ問題児と言えるような存在だったからだ。しっかり者で気配りができ、3年生の頃から主将を任せられた前任者の石山大輝とは真逆の性格。その阪本が新キャプテンを決める段になって、意外にも自ら立候補してきた。
「お前なんかにやらせられるか。どれだけチームにむちゃくちゃしてきたと思っとるんだ」と一度は突き放したものの、本人は「反省してます。僕に任せてほしい」と自信たっぷりだった。その舌の根も乾かないうちに……。
本来、駿河台大駅伝部の寮の消灯時間は午後10時に設定されている。この日は阪本のたっての願いで午前0時まで延長していた。そこに至るまでにはこんなやり取りがあった。
規則を破ったキャプテンに「お前はいま何分だっけ?」
「部員同士で交流もしたいし、1回背伸びしたいので門限を無くしてください」
「なんで? 昼間に遊べばいいじゃん。どうして睡眠を削ってまで親睦を深める必要があるの? 俺にはわからん」
「お願いします」
「お前が(10000m)28分台の選手だったら俺は今すぐいいよって言うよ。それが俺とお前らの約束だ。お前はいま何分だっけ?」