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大迫傑と同期の箱根ランナーが、大学時代出会った妻とともに長野で農業をしているワケ「大迫の存在が影響してるんです」 

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清水岳志

清水岳志Takeshi Shimizu

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posted2022/01/02 11:05

大迫傑と同期の箱根ランナーが、大学時代出会った妻とともに長野で農業をしているワケ「大迫の存在が影響してるんです」<Number Web> photograph by AFLO SPORT

第88回箱根駅伝を走った頃の志方文典(右)。大迫傑と同期のランナーはなぜ今、農業に従事しているのだろうか

 今は義理の両親が師匠だ。愛知出身の義父は結婚後に野辺山に来て、農業を始めた。境遇が同じで見習うべきところが多い。

「自分はペーパードライバー歴が長く、トラクターを扱えるのはいつになるか(笑)。義父さんはご自分で工夫してやっちゃうことが多い。例えば大根を洗う大きな水槽を、日曜大工的に作っちゃうんです。僕にはまだ、そんな発想も出てこない」

「経営なんて会社員時代では考えたこともなかった」

 一方でツイッターなどSNSを使ったネット販売は志方が始めたもので、家族の助けにもなった。

「JAの販売だと消費者の声が聞こえないんですが、ネットで売ってくれるといろんな反響がある。親も喜んでる」

 妻の顔がほころんだ。

 身分としては個人事業主になる。収入はサラリーマン時代と比べれば半分以下だという。「そこのハングリーさがないのもどうかなと思うんですが」と笑った。お金は都会にいる時よりは使わない。農閑期の旅行費用、資産運用に充てたりしているそうだ。

 農業は自然が相手。安定的な収入が見込めるものではない。大雨や干害、病気もあって翌年から栽培作物そのものを変える必要性も出てくる。トウモロコシを来年作れるかどうかわからない、という世界である。

 また、好天で取れすぎるのも問題だ。日本の人口は増えていない状況で胃袋の絶対数は限られ、取れても売れないという問題がある。それとともに他の産地が台風直撃で不作、ということは考えたくない。現代は品種改良が進んで季節や産地を問わずに野菜が食べられる。夏野菜のレタスが冬でも安価なのは消費者にはありがたいのだが――生産者の立場では、違う考え方になる。

「効率化が進んでるので大規模農家の一人勝ち状況になっています。中小規模の農家が淘汰されて苦しんでいるんです」

 そう志方は疑問を投げかけていた。経営はまだしていない。が、将来的には経営に携わることになるだろうから、簿記の勉強も始めたそうだ。

「経営なんて会社員では考えたこともなかったです。どういう仕組みで会社が成り立って、事業が行われているか、ここにきて認識できた。個人農家とはいえ企業と同じ。それだけでも進歩です」

同期・大迫の最後のレースには「彼らしい集大成でしたね」

 志方の小遣いの使い道の1つは、ジョギング用品だ。やはり走ることは止められず、空いた時間を見つけては家の周りや近くの公園を走っている。11月28日に河口湖周辺を走る富士山マラソンに参加。

「大学1年以来、調子がいい」

 2時間33分台で走り切った。約5000人が走って8位だった。

 同期の大迫は東京五輪で6位に入賞した。レースは仕事中だったのでツイッターでチェックしたという。

【次ページ】 農業とランニングをリンクさせられないか

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