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大迫傑と同期の箱根ランナーが、大学時代出会った妻とともに長野で農業をしているワケ「大迫の存在が影響してるんです」 

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清水岳志

清水岳志Takeshi Shimizu

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posted2022/01/02 11:05

大迫傑と同期の箱根ランナーが、大学時代出会った妻とともに長野で農業をしているワケ「大迫の存在が影響してるんです」<Number Web> photograph by AFLO SPORT

第88回箱根駅伝を走った頃の志方文典(右)。大迫傑と同期のランナーはなぜ今、農業に従事しているのだろうか

「ただレールに乗っている人生でした。親もサラリーマンで企業に勤めるのがいい、と育てられてきた。でも、それだけではなくて自分の力で生きることが出来ないか――結婚してから芽生えた感情ですね」

 自分の足で自分の道を駆けてみたい。そこで考えたのは、野菜を作って生きていくこと。それが自分の存在証明になるのではないか。

「義理の親からは若いので、なんとでもなるからと。気張らずに、というか、とりあえずやってみたら、と背中を押されました」

 2019年4月から信州の野辺山に引っ越した。新しい環境に“移動”したのだ。

新たな環境は2.5ヘクタールの畑

 JR野辺山駅は国内最高地点駅として有名だ。妻の実家ということで野辺山に来たことはあった。陸上部の夏合宿は涼しい高原で行われる、そんなイメージだった。

 作業も手伝った。早朝からの仕事は高校の朝練も早かったので苦にならなかったが、同じ姿勢を長時間続ける大変さが残った。

「農業をする、と決めた時に“あの大変な作業をするんだ”と思い浮かびましたが、慣れれば大丈夫と言われました。体力的には自信があるんで」

 希美さんも自営業をやりたいと考えていたという。

「家族を見てきて、夫婦で一緒に仕事をしたいなと思っていました。不安半分でしたし、苦労は絶対にしなきゃいけないと思っていましたけど。一緒に農業をやると決断してくれて嬉しかったです」

 今は義理の両親と姉、志方夫婦の5人で2.5ヘクタールの畑で主に大根、トウモロコシを栽培している。

 オフシーズンの11月下旬、義父さんがトラクターで起こした土は八ヶ岳の赤岳から吹き降ろす冷たい風にさらされていた。志方はまだ、トラクターが運転できない。

 3月に土の乾燥を防いだり、害虫予防などのためにマルチという黒のビニールを貼る。大根の種まきが5月10日前後。トウモロコシは4月の下旬にハウスで苗を作って、5月下旬に畑に植える。大規模ではないので植え付けは手作業、人力だ。

 水撒きはほぼ、自然の恵みに任せて、雑草取りなどが収穫までの仕事になる。鳥や動物が食べに来るので、電気柵を張ったり、鷹の模型をつるしたりもする。そして7月、大根は種まきと収穫を並行して行う。トウモロコシの収穫は8月中旬だ。

収穫の時期は朝5時から夕方5時まで作業

 収穫の時期は毎日、朝5時から夕方5時ぐらいまで作業。もっと早くて2時、3時からの農家もあるという。収穫は機械でできても選別は手作業だ。箱詰めしてJAなどに出荷する。

 トウモロコシは1カ月かけて出荷する。1箱に12、13本入っていて、それが1日に100ケースほどになる。

 他には冬に出荷する寒締めホウレンソウ、標高800メートル以上でないと作れない花マメを小さい規模で作っている。

 栽培、収穫、出荷のサイクルも3年回って慣れてきた。志方は個人的に家庭菜園ゾーンを作って、今年は白ナスを収穫したという。

【次ページ】 「経営なんて会社員時代では考えたこともなかった」

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志方文典
大迫傑
早稲田大学

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