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「マスコミを大事にしろ」「引退した後のことも考えておけよ」名将・野村克也から真中満が学んだ“監督の心得”とは
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/17 17:03
ヤクルトがセ・リーグ優勝を果たした2015年、試合前にベンチで真中満監督と談笑する野村克也氏
「ID野球」「野村再生工場」の本質とは
野村監督の「ID野球」というのは、具体的な采配の前にまずデータを見るんです。データというのは、要するに過去の傾向の集積ですよね。それを事前準備として、ミーティングなどで各選手がしっかり頭に入れておくわけです。
もちろん、いざ試合になってみるとミーティング通りにいかないことも多いですよ。実際の采配や選手の対応はそこで細かく変わってくるんですが、迷ったときにはデータに立ち戻ることができる。「困ったらデータを活かしていこう」という原点があるのが、野村監督時代のヤクルトの強みでしたね。
僕はヤクルトでしかプレーしていないのでわからない部分もあるんですけど、おそらく他球団から移籍してきた選手は「こんなふうに考える野球があったんだ」と感じる部分がたくさんあったはずです。これまでと違うアプローチでプレーできれば、成績も上向いていく。「野村再生工場」というフレーズが生まれたのは、そういった背景によるものだと思います。
理論的なことにしても、技術的なことにしても、野村さんは出し惜しみをまったくしない方でしたね。プロ野球の監督のポストは全部で12しかないんですよ。相手がベテランの選手やコーチだったりすると、ある意味でライバルを育ててしまうことになるんですけど、人になにかを教えることに躊躇がなかった。むしろ野球界のレベルアップのために、どんどん伝えるべきことは伝えていくというタイプでした。
どんな仕事をしていても、自分に自信がない人は「部下が成長したらポストを奪われるんじゃないか」とか考えてしまいがちじゃないですか。でも野村さんの場合は確固たる自信があるし、人を育てることが本当に好きな方だから、選手やコーチになにを伝えても自分のポストを失うことなんて考えないわけですよ(笑)。そうやって自分の知識や経験を余すところなく伝えてきたからこそ、こうして野球界にたくさんの「人を遺す」ことができたんだと思います。
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