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ロックンロールとしてのベースボールBACK NUMBER
“クールな音楽球団オリックス”という独創性 「歓喜の歌」「若者のすべて」「終わらない歌」…過激で鮮烈で豊かなセンス
text by
スージー鈴木Suzie Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/12/26 17:04
パ・リーグを制覇し、日本シリーズでも激闘を見せたオリックス。その本拠地に鳴り響く音にも注目したい
《その陰で、04年まで同じく情熱をもってプロ野球に見入っていたはずの人々が、05年には行き場をなくし、右往左往している。ある者は球場に入って10分で耐えきれずに退出し、ある者は見るのもイヤだと球場を避けるようにして暮らし、ある者はおそるおそるテレビ中継を眺め、ある者は複数チームの応援席を転々としている……。》
無論、これは旧・近鉄ファン、旧・阪急ファンについてのことだ――昔話が長くなってしまった。「オリックス、25年ぶりのリーグ優勝」と、無自覚に語られることがあまりにも多かったので、とりわけ若い野球ファンに、かつて何があったのかを、知ってほしくて、あえて書いてみた。
「ボールパーク」を演出する音楽の重要性
さて話を戻す。「ボールパーク化」が叫ばれて久しいが、具体的な施策としては、ユニフォームの無料配布や、選手考案の飲食メニューなどばかりが話題で、肝心のゲームを盛り上げる演出、特に音楽の話が盛り上がらないのを残念に思っている。
いいタイミングでのいい選曲――球場に頻繁に足を運ぶ我々野球ファンは、音楽が、観戦を盛り上げるのに、非常に重要な要素だということを、重々承知している。
その点、オリックス球団は、音楽という点において、他球団の先を行っていると感じる。「いいタイミングでのいい選曲」に工夫を凝らして、来てくれた観客を、「あっ!」と「おおっ!」と「ええやん!」と言わせようと目論んでいる感じがする。
私の周囲にいるオリックス・ファンは、球団応援歌『SKY』のことを、嬉々として誇らしく語る。9月の夜の神戸で、『若者のすべて』を聴きながら花火を観た観客は、格別な体験を提供してくれたオリックス球団を好きになるかもしれない。
負の位置から正の位置へと、一歩一歩進んでいく長い長い道のり。そのエンジンとして、オリックス球団は、その音楽センスを意識的に活用すればいい。野球ファンかつ音楽ファンの1人として、強くそう感じる。
オリックス球団の選曲センスに驚いた日
最後に、私がオリックス球団の音楽センスの豊かさを感じた強烈なエピソードを記しておきたい。
2008年、クライマックスシリーズ1stステージ第2戦、初戦に敗れたシーズン2位のオリックスが、同3位の北海道日本ハムに5点ビハインド、ついにすべてが終わるかと思われたそのとき。京セラドーム大阪に、あの曲が流れたのだ。
「♪終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため」
THE BLUE HEARTS『終わらない歌』(87年)――すべてが終わってしまいそうなギリギリの局面を経験した、すべての音楽ファンの心に鳴り響く、最強のロックアンセム。
残念ながら、オリックスは最終回も無得点で08年シーズンを終えたのだが、球場という場において、あれほど鮮烈で的確な選曲を、私は知らない。<落合博満編に続く>