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JリーグPRESSBACK NUMBER
「普通のJリーグのチームにはなりたくない」いわきFCのフィジカルだけでない “震災からの復興ホームタウン革命”
text by
川端康生Yasuo Kawabata
photograph byYasuo Kawabata
posted2021/12/16 11:03
いわきFCと東日本大震災の被災地。ホームタウンとして徐々に浸透、拡大している
来年度中にいわきグリーンフィールドを「例外申請」が認められるレベルで改修して当座を乗り切ることはできるが、それにしても5年間の期限付きだ。
上を目指すには早晩、スタジアム問題に直面する。
それでもJ3昇格を決めた後、「J2までは行こうと思っている。その術は持っているから」と大倉社長は話していた。
ビジョンを忘れて勝敗に固執するチームにしたくない
首尾よくJ2昇格を果たせれば、Jリーグの分配金(1.5億円)が加わり、年間予算が8億円に増え……と思わず算盤を弾きそうになったが、大倉は釘を刺すように続けた。
「これからJリーグに入ると、勝った負けた、昇格降格……そんな世界に巻き込まれていくことになります。勝利を目指すのは当然だし、僕自身勝ちたいし、昇格もしたい。でも、その前にこのクラブのビジョンをもう一度、整理する必要があると思う」
そして、こう言った。
「普通のJリーグのチームにはなりたくないなと思ってるんです」
それは以前「我々はJリーグ入りが目的ではありません」と言ったときと同じトーンだった。
すでに多くのクラブが辿った同じルートをなぞって、同じようなクラブになるつもりはない。だからJリーグの文脈にからめとられたくない。そんな強い意志だ。
J3昇格に沸くサポーターやホームタウンへのメッセージでもある。
なぜなら――。
「いわきFCは他のクラブとは成り立ちが違うからです。震災から復興するこの地域の希望となるために生まれた。だからビジョンを忘れ、勝ち負けに固執するチームにしたくないし、なってはいけないと思う。我々にとっての成功はJ1に上がることではなく、あの横断幕の、あの思いを……」
それはいわきFCがJ3昇格を決める試合からサポーターが掲げるようになった横断幕だ。
<浜を照らす光であれ>
そして、昨年加わった双葉郡の8町村も含めたすべてのホームタウンの名前。
多くのものを失ってから10年9カ月が経った。
それでも、あの日より後に生まれたものもある。なかったものができたら、出会いも、初めての喜びも、つながる心強さも、ガッツポーズの興奮さえも生まれたのだ。
長く続く物語だ。これからも始まり、生まれることがきっとたくさんある。いわきFCがホームタウンを照らす灯台であり続ける限り、ずっと――。<前編から続く>