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「バロンドールになぜメッシ?」日本で唯一の投票委員が違和感を抱いた賞の価値《選考基準はどこに?》
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2021/12/04 17:01
7度目の授賞式のスピーチで、メッシは2位となったレバンドフスキを気遣うコメントを発した
12月4日発売の『フランス・フットボール』誌12月号がまだ手元にないので、詳しいデータを基にした分析はできないが、恐らくヨーロッパの投票委員たちはメッシを1位には推していないのではないかと思う。2年前の投票でも、ヨーロッパとアジアではファンダイクが1位で、それ以外の大陸がメッシだった。また全176人の投票者のうち、メッシを1位にしたのが61人に対し、ファンダイク1位は69人であった。
たしかにメッシはコパアメリカに勝った。アルゼンチン代表として獲得した初のビッグタイトルであり、バロンドール選考基準のひとつであるコレクティブなパフォーマンス(=チームへの貢献度。具体的にはタイトルの獲得)を満たしてはいる。だが、今年の場合、コパアメリカ優勝が、彼の活躍が突出していたことを必ずしも意味はしなかった。とりわけPSGに移籍して以降のパフォーマンスは、有力候補としての存在感を薄くした。それでもメッシが選ばれることの意義はどこにあるのだろうか。
バロンドールの価値
バロンドールは人気投票ではない。世界のジャーナリスト(もともとはヨーロッパのジャーナリスト)が、ジャーナリスティックな見地からその年に最も活躍した選手を選ぶ個人表彰である。投票の基準も明確に定められている。1番目が個人のパフォーマンスとコレクティブなパフォーマンス(タイトル獲得)、2番目が選手のクラス(資質とフェアプレー)、3番目が選手のキャリアである。実質的には1番目が最も重要で、そこでほぼ決まるといっても過言ではないが、過去においては2番目や3番目が大きな意味を持つこともあった。いずれにせよそうしたジャーナリストたちが作り出す世界観が、バロンドールの価値を高めていった。
2010年にバロンドールがFIFA世界最優秀選手賞と融合しFIFAバロンドールになったとき、バロンドール創設者のひとりであり当時90歳だったジャック・フェランはレキップ社の社主に手紙を送り抗議の意を示した。『フランス・フットボール』誌と『レキップ』紙の編集長として1985年まで活躍し、FF誌の巻頭コラムを2000本執筆したフェラン――98歳で亡くなるまでフェランは、頭脳は明晰で言葉も明快だった――は、FIFAバロンドールになることでバロンドールがこれまで維持してきた独自の価値が損なわれるのを危惧したのだった。