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「高校野球のトーナメントっていろんな歪みがある」 慶應義塾・森林監督48歳が語る《神奈川でリーグ戦を推進する理由》
posted2021/12/05 17:03
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kou Hiroo
高校野球のリーグ戦「Liga Futura」についてはこのコラムで何度か取り上げたが、今年から「Liga Agresiva」と名前が変わった。また昨年までは、大阪、新潟、長野の3府県で開催されていたが、今年からは14都府県に渡る高校で12のリーグで80校以上の高校が参加することになった。
そのリーグ戦が、神奈川でも始まることになった。
これを積極的に推進しているのが、慶應義塾高校の森林貴彦監督(48)だ。森林監督は大学では母校の学生コーチとして元西武の佐藤友亮らを育成。その後、NTT勤務を経て筑波大大学院で体育理論を修め慶應義塾幼稚舎教諭に。2012年から野球部助監督。2015年秋から監督として指揮を執っている。
また昨年には『Thinking Baseball ――慶應義塾高校が目指す野球を通じて引き出す価値』(東洋館出版社)という著書も著し、高校野球の在り方に疑問を投げかけている。
秋の気配深まる日吉の慶應高校グラウンドで、森林監督に話を聞いた。
勝ちを目指すが、スポーツはもともと楽しむことが基本
「野球は、そもそも失敗が多いスポーツで、3割打てばいい選手だとよく言われるところです。どんなスポーツもそうですけど、失敗したら取り返しがつかないような状況では積極的にプレーできないんですね。
トーナメントがまさにそれで、負けたら終わり、“あのミスが試合を台無しにした”みたいなことが、積極性を失わせることになってしまう。トーナメント主体の大会は、スポーツの価値を高めていくうえでは足かせになるのではないか、というのがLiga Agresivaに参加を決めた大きな目的です。スポーツはもともと楽しむことが基本で、もちろん勝ちを目指すんですが、本質を見失ってはいけないと思うんですね」
「勝利」と「選手の成長」は、時に相反し、時に一致する。難しいテーマではある。森林監督はこのように続ける。
「確かに勝つことによって自信がつくという一面はあります。でも野球は勝ったり負けたりする中で、成長する部分がある。勝ち試合でも反省したり考えることはあるし、負けの中にも、うまくいかなかった部分を振り返って、“じゃあ、ここを練習しよう”と思ったりする。
リーグ戦だったら“今日はこうだったけど、来週また試合があるからこの1週間ここをポイントとして頑張ろう”とか、いろいろ考えることができる。これがうまくいったらすごいな、とか、そのワクワク感が監督のやりがいでもあるんですね」
トーナメント戦には“負けたら終わり”という半端ではないプレッシャーが存在する。それは選手たちだけでなく、監督もしかりである。