酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「高校野球のトーナメントっていろんな歪みがある」 慶應義塾・森林監督48歳が語る《神奈川でリーグ戦を推進する理由》
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2021/12/05 17:03
慶應義塾高校・森林貴彦監督の言葉からは先進的な高校野球の空気を感じた
「夏の大会で一番しんどいのって、エースを投げさせない試合なんですよ。神奈川県大会では、7、8試合勝たないと甲子園には出場できないんですが、エースを全ての試合に投げさせるわけにはいかない。当然2番手以下の投手を先発で行かせなければならないんですが、それが一番きついっていうか、夜中に起きて『3番手のこのピッチャーで何イニングいけるのかな』って考えてしまったり。エースを使わなくても勝たなきゃいけないっていうのがすごいプレッシャーですね。
そのような試合は、勝ったらもちろんホッとするんですが、何か嬉しくはない。これは本来の野球でも、スポーツでもないんじゃないか。なんか仕事みたいだな、と思います。もちろん負ければもっとつらい」
当然、エースを起用しなければ批判の声も上がる。監督という立場で、それをどのようにとらえているのだろうか。
「批判もありますね。『なんで投げさせなかったのか』とか、トーナメントっていろんな歪みがあると思いますね。
その点、リーグ戦は、例えばこの試合は、来年以降のために全部1年生で行こう、でもこの先発はすぐにダメになるかもしれない、初回で代えるかもしれないから肩作っておいてね、とか気軽に言えるんですね。夏の大会なんか、そんな気楽なこと言えない。『負けるかもしれない』なんて悪いシナリオは誰にも言えないのがしんどいですね。負けてしまったらそれでおしまいですから。
トーナメントの呪縛と言うか重さから逃れることができるのは、やはりリーグ戦です。本来のスポーツに近い部分、勝つか負けるかわからないけど、チャレンジしてみようと言うことができる。トーナメントだとやっぱり負けたくないから、チャレンジしないで無難にいこうと思ってしまう。
サッカーでは、高校生もリーグ戦やっていますよね。あれ、いいと思います。野球の遅れている部分というか、変えていかなければならないのは、そこだと思っていたんです」
大阪発の「Liga Agresiva」は14都府県へ
森林監督らが取り組んでいる「Liga Agresiva」そのものは、大阪の高校野球指導者たちが7年前に「球数制限」「低反発金属バットまたは木製バットの使用」「スポーツマンシップなどの学び」を掲げてスタートしたものだ。
その理念に共鳴して長野県、新潟県、そして今年は14都府県まで広がったのだが、森林監督はもともと問題意識を持っていただけに、単に自校が参加しただけでなく、神奈川県内の高校野球指導者に呼びかけて、リーグ創設に動いた。