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日本ハム新ボールパーク構想はいつ生まれたのか?《総工費600億》巨大な夢に挑む男たちの舞台裏「吉村さんなくして語れない」 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byES CON FIELD HOKKAIDO

posted2021/11/30 11:01

日本ハム新ボールパーク構想はいつ生まれたのか?《総工費600億》巨大な夢に挑む男たちの舞台裏「吉村さんなくして語れない」<Number Web> photograph by ES CON FIELD HOKKAIDO

2023年春に開場する北海道日本ハムファイターズの新スタジアム「エスコンフィールドHOKKAIDO」のパース図

「シーズン前に、『今年は優勝できますか? どれくらいの手応えですか?』と訊くんです。チーム統轄本部と事業統轄本部は全く異質の部署ですが、相互関係にある。いくらエンタメやサービスを向上させても、チームそのものに強さや魅力がないとお客さんは来てくれないですから」

 事業部門のトップである前沢が欲しいのは観客動員を含む事業とチームの相乗作用、シナジーの量のような“物差し”である。決して数値化することなどできないのは知っている。それを承知であえて編成のトップに訊く。

 すると吉村は独特の表現で返答するという。

「吉村さんは優勝するとも優勝しないとも言わない。しかし、言葉の端々を読み取ると何となく自分の中ではわかる。決して数値にできないことを、わかるように表現してくれる。またチームの中長期的なことも訊きます。事業の責任者として、チームの責任者には遠慮なく何でも訊きます。吉村さんは寡黙でとっつきにくいと思われていますが、訊いたことにはすべて答えを返してくれます」

 編成の責任者であれば、自らがつくったチームに対して願望を込めた物言いになるのが自然だが、吉村はあくまで淡々と語り、そこに私情が見えないのだという。そして、シーズンが終わってみると、吉村の言葉が妙に腑に落ちて響いてくる。

「吉村さんが言っていたのは、こういうことだったのかと、結果を見るとなんとなくわかるんです。それが大きく外れることがない。もちろんチームは毎年、優勝をめざして戦っているわけですけど、そういう熱さの裏に、長い眼で冷静に見通しているようなところがあるんです」

巨人、ソフトバンクに次ぐ3番目の優勝回数

 リーグ6球団、単純に考えれば、1つのチームが優勝する確率は16%だが、そこに球団ごとの財政規模が絡んでくると、そうはいかなくなる。ソフトバンクホークスのような他球団の2倍ほどの費用をかけて強化するチームが出現すれば、なおさらだ。絶対王者が誕生すれば、弱者も生まれる。

 そんな中で吉村は優勝確率29%という実績を残してきた。この17年間で最も優勝回数が多いのは巨人であり、その次がソフトバンクとなるが、3番目にくるのが日本ハムなのだ(別表参照)。

 先のことなど計算できない勝負の世界で、吉村のビジョンは永続的で計算できる――前沢はそう実感しているからこそ、吉村の存在をボールパーク構想の羅針盤のように考えてきた。

【次ページ】 “ビッグボス”就任の先に見据えるビジョン

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