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甲子園で“幻のノーノー”→明治神宮大会で“あわやの快投”⋯慶應大エース・増居翔太は何が変わったのか?〈大学四冠まであと2勝〉
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byYuki Suenaga
posted2021/11/24 06:00
明治神宮大会初戦、5回までノーヒットノーランの快投を見せた慶應大・増居翔太
「見た目以上にキレがあって、なかなか思うようなバッティングができませんでした」
5回終了時点でノーヒットノーラン。味方のファインプレーに助けられた場面があったとはいえ、まさに理想の試合運びだった。
「最後に打たれて『自分らしいピッチングだな』って」
ほとんどのピッチャーは、このあたりから自身の快投に気づいて意識と無意識のはざまで感情が揺れ動き、良くも悪くもパフォーマンスに影響を及ぼすものである。
しかし増居は、「かなり序盤から意識はしていました」とあっさり答えた。
「『打たれるかな』と思いながらも、センターがヒットを阻止してくれたりしていたんですけど、最後に打たれて『自分らしいピッチングだな』って思いました」
増居が笑う。それは自嘲ではなく、自覚から発生させる感情だった。
6回表に2死から初ヒットを許し、その裏の打席で代打を送られ増居は降板した。理由について、監督の堀井哲也は「球数だったり、捉えられ始めていたことだったり、あとは打順の巡り合わせとか総合的に判断して」と説明した。球数は73球と余力を残してはいたが、今季のリーグ戦での増居の最長マウンドが7回という事実を鑑みれば、この交代は慶應義塾大のパターンでもあった。
自分らしいピッチング。それは皮肉などではなく、半ば本心でもあった。増居はその真意をはっきりと伝えている。
「ノーノー(ノーヒットノーラン)には、あまりいい思い出がないので」
甲子園の“9回ノーノー”で得た教訓
悔恨の起源は2018年まで遡る。
彦根東のエースとして出場したセンバツ。3回戦の花巻東戦で、増居は9回までノーヒットノーランと限りなく偉業に近づきながら延長10回に初ヒットを許し、この回でサヨナラ負けを喫する悲劇の中心にいた。