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甲子園で“幻のノーノー”→明治神宮大会で“あわやの快投”⋯慶應大エース・増居翔太は何が変わったのか?〈大学四冠まであと2勝〉
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byYuki Suenaga
posted2021/11/24 06:00
明治神宮大会初戦、5回までノーヒットノーランの快投を見せた慶應大・増居翔太
試合後、涙を見せることなく淡々とマウンド捌きを振り返っていた増居を思い出す。
「『今日は調子がいいな』と思ってはいましたけど、粘り切れなかったのは『調子がよすぎる』ことを自分の実力だと勘違いしてしまったことで。だから、最後の最後に集中力が切れてしまった。ヒットを打たれてからも、間をとったりすればよかったです」
そして最後には、自らの想いを解放させた。
「ノーノーより、勝ちたかったです」
高校時代の言葉からもわかるように、増居は自分を俯瞰できる人間だ。地頭の良さも当然あるが学力も高く、進学校の彦根東では学業成績も優秀だった。一時は京都大への挑戦も考えていたそうだが、最終的にAO入試で慶應義塾大に進学した経緯があった。
1年生の春から東京六大学リーグのマウンドに立ち、今春は4勝、防御率2.10でベストナインに初選出。全日本大学選手権では2勝を挙げ最優秀投手賞に輝いた。秋も1勝ながら防御率2.16と先発としての役割を果たした左のエースは、来年の「ドラフト候補」にリストアップされるまで自分を磨き続ける。
ノーヒットノーランを逃した経験が、今日の増居のすべてを形成しているわけではない。ただ、「1本の怖さ」を胸に刻ませるには、あまりにもインパクトが強い“事件”だった。
あれから3年8カ月が経過した21年。大学の全国大会には違う増居がいた。
「大学四冠」まで、あと2勝
オンライン取材で、なおかつマスク越しでも増居が笑っているのがはっきりとわかる。
「終盤に1本(ヒットを)出しちゃうと相手が乗ってきちゃうことがあるので。だから、『早めに打たれたいな』と思っていました」
抑えて負けた高校時代を糧に、大学生の増居は打たれても勝てるピッチャーとなった。
「大学四冠」まで、あと2勝。
慶應義塾大のマウンドには増居がいる。
調子の波に左右されず冷静に。いかなる局面でも柱は揺るがない。
そう、陸の王者の威厳の如く。
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