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Xゲームズ最多優勝・安床栄人38歳に聞く“スケボー競技化で生まれた矛盾”「ストリートは日本では受け入れられない」
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byAkatsuki Uchida
posted2021/11/13 17:01
2000年代からインラインスケートで世界タイトルを100以上獲得してきた“安床ブラザーズ”の兄・栄人氏
栄人も行政や業者から、助言を求められる機会が増えた。ただ業者が作った設計図を見ると「これではトラブルが起きるぞ」と思うことがある。それでも、建築前に相談がもらえるなら、まだ良い方だ。困るのは、既に作られた場所から「こんな面倒が起きたんですが」と助言を求められた時である。
「そういう場所の見取り図を見せてもらうと、例えば、BBQ場だった場所を半分削ってスケートパークにして、パークとBBQ場を遮る壁がなかったりするんです。そのあたりの知識が、まだ足りないんだなと思いました」
今さら説明するまでもないだろうが、スケートボードは、足に固定されていない。宙を舞い回転するボードを、人馬一体よろしく如何に乗りこなすかが、この競技の勘所だ。だが滑った経験や知識がないと、ボードは遠くに飛んでいくものだということを想像しづらい。
その現状を前提とし、栄人は「僕が声を大にして言いたいのは、滑る側の意識と知識」と語気を強める。
「ここで滑ったら板があそこに飛んでいきそうだ、だから止めとこという意識。ここでやったら人を傷つけるかもしれへん、あそこを壊すかもしれへんという意識が、やる方に欠けているかなと思います。そういう意味では、ちゃんとした施設ができて、そこで滑れる環境が理想かなと思います」
「“ストリート”を競技としたことに矛盾がある」
父・由紀夫が抱く憂慮は、ストリートスポーツが“競技”の枠に収められる矛盾に端を発する。
「“ストリート”は本来は街中のものを使ってやることで、それを競技としたことに矛盾がある。これはアメリカでも難しい問題で、突き詰めていくと、ちゃんとした専用の施設でやりましょうということになるんです」
だが現実には、専用施設は数がない。
「そこまで足を運ぶのも面倒くさい。近いところ、目立つところでやりたいとなる。だからたぶん、一般の人たちが迷惑がることが増えていくやろなと、オリンピック前から心配していました」
スケートパークの経営者として、何よりスケートカルチャーを愛する者として、「多くの人に印象良く思ってほしい。一部の迷惑をかけている人のせいで、ちゃんとやっている子が同じように見られてしまっては困る」というのが由紀夫の願いだ。
さらにもう一つ、由紀夫が危惧することがある。それは、オリンピックがもたらす過度な名声や商業主義に飲み込まれ、エクストリームスポーツの本質が失われることだ。