勝利を強く欲すれば、そこには駆け引きが生まれる。照準を定める大会で勝つために、他の大会ではあえて大技を隠すことも戦略の一つだ。

　だが由紀夫は、「本質はそこではない」と断言する。

「2000年代に活躍したブラジルのファビオラ・ダ・シウバという女子選手は、男の中に入っても見劣りせず、実際に男子の大会に出てトップ10に入ったりしていたんです。

　僕がさくらちゃんに言ったのは、彼女は女の子のなかで戦っているけれど、もっともっと伸びようと思ったら、そんな枠を作っちゃダメだということ。技をマネされたくないから見せないとか、そんなこともやってちゃあかん。『私の技なんて。誰もできひんやろ！』という気概でやってほしい。このスポーツの本質は、自分がどういうスタイルでどういう技を持っていて、それをどう見せるか。自分の生きざま、滑りざまをどう展開していくかが大切だと思います」

「まだ日本では難しい」現実とどう向き合うか

　スケートボードの盛況もあり、インラインスケートも近い将来、オリンピックの正式競技に加わると見られている。ただ栄人は、「まだアクションスケートが日本に認められたという感覚はない」と胸の内を吐露した。

「通行人に迷惑をかけたり、公園の一部を破壊したり。そういうことにつながりかねない懸念はあります。施設が増えて、競技者とリクリエーションが両方できる環境ができれば良いんですが」

　それを期待するのは、まだ日本では難しいかな……そんな不安材料を口にするも、ふと何かに気付いたように言葉を切り、朴訥な声音に微かに熱を込めて彼は言った。

「その環境を作るのも、自分たちの役目なのかな」――と。

＜前編から続く＞