ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
浅野拓磨のクイックネスが素晴らしすぎたボーフムの夜 献身的なフリーランニングで地元ファンの心も鷲掴みに
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2021/11/08 17:03
今季よりボーフムでプレーする浅野拓磨。旧知の記者が現地で目の当たりにした進化した姿とは?
平静を装わなくては。浅野の勇姿を思えば狂喜乱舞したい気分ですが、フランクフルト在住の身としては、アイントラハトの窮状も憂いたい。そもそも僕はメディアなので、滅多なことでは記者席で万歳などできません。それでも浅野が見せてくれたクイックネスは素晴らしく、紆余曲折を経ながらもボーフムを再出発の地としたことの正しさを証明した事実に、僕は心の中で賛辞を送っていました。
“ニュー・アサノ”はひたむきさを一層醸すように
セルビアを経由し、久しぶりにブンデスリーガで戦う浅野のプレーを目にした印象は、以前よりも献身性が格段に高まった、というものでした。元々、浅野は絶え間ないフリーランニングで味方からのパスを引き出そうとする選手で、結果に結びつかなくても一切手を抜きません。幾多の経験を積んでバージョンアップした“ニュー・アサノ”は、そのひたむきさを一層醸すようになっていました。
フランクフルト戦で81分までプレーした彼はおそらく、20回以上の爆発的フリーランニングを繰り返しました。後半半ば以降にはさすがに両膝に手を置いてうなだれる仕草も見られましたが、さもありなん。身を切りながらチームへの忠誠心を示す浅野の姿に、安堵にも似た感情を抱いたのでした。
間近で観たからこそ確信できた事実。局面強度の向上は顕著、狭小局面でのベーシックスキルも安定、ロケットのような加速力は健在。惜しむらくは、相手GKとの1対1という絶好機をモノにできなかった、愛すべき(?)彼の個性は維持されたまま。総合すると、浅野拓磨はブンデスリーガーに相応しい逞しさを兼ね備えていました。
サポーターも浅野のパフォーマンスを絶賛
試合は2-0でホームのボーフムが大勝利。現在のブンデスリーガは未だミックスゾーンが設営されず、選手の生の声を聞くことができません。大団円に包まれるスタンドを駆け下りてコンコースの売店へ向かい、僕も待望のビールを一口飲み干して、夢心地。周囲のサポーターの声に耳を傾けると、我が選手たちの勇姿を回顧しながら大絶賛の嵐でした。
「今日のアサーノ、懸命に走ってたよなぁ」
ああ、もう、身がよじれます。浅野にしてみれば勝手に代弁者となり大迷惑でしょうが、「そうでしょう?」と言いながら、恰幅のよいサポーターと肘タッチ。スタジアムを出ると夜空には眩い星々が瞬いていて、その“キャンバス”を横断するようにあの白い湯気が漂っていました。
ホームチームが勝つと興奮が尽きません。これこそがサッカーの魅力、ホームタウンの魅力。浅野拓磨が、その滾るような情熱をこの街で燃やしている。その幸福に浸りながら、僕はまたヨーロッパの街々を巡る旅を続けるのです。