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“166cmのセンターフォワード”飯島陸(法政大)はなぜJリーガーになれたのか「背の低い選手はダメなのかと何度も…」
posted2021/11/05 17:01
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
AFLO SPORT
時代の流れに逆らうように挑戦を続ける、小さなJリーガーの誕生だ。
来季からJ2ヴァンフォーレ甲府への加入する飯島陸(法政大4年)は、“センターフォワード”というポジションにこだわってきた。身長は166cm。戦術が発達した今、世界に目を向ければ190cmを超える選手が起用されることも少なくないだけに、フィジカルと高さが求められるこのポジションでは小さい身長は不利になる。ゆえに苦しみ、悩み、やっとの思いでプロの世界に飛び込んだ。
飯島の名前を見て、あの活躍を思い出す人も多いだろう。
群馬県の名門・前橋育英高の10番として2年時に選手権準優勝に貢献。3年時にはエースストライカーとして選手権得点王を獲得するなど、同校の初優勝の中心選手となった。卒業後は法政大学に進み、4年生となった今シーズンでも10番を背負って総理大臣杯優勝を経験している。
「アグエロのようなストライカーになれる」
小柄な体格が敬遠されたのか、高校卒業時にプロから声がかかることはなかったが、真っ先に飯島の獲得に動いたという法政大の野木健司強化・スカウト担当は当時の印象をこう語る。
「なぜあのサイズであれだけゴール前で勝負強くて、点を獲れるのか。驚きました。よく見ると、彼は常に相手と駆け引きしていて、シュートを打つポイントで相手より前に入ってエリアを確保してから、シュート、パスなど多彩な引き出しを発揮する。特にこぼれ球やディフレクションに対する反応が他の選手よりずば抜けて速い。これだけの能力を持っていれば、もっとフィジカルがつけば(セルヒオ・)アグエロのようなストライカーになれると思ったんです」
チームメイトの信頼も厚い。来季から連覇を達成した川崎フロンターレへ加入するMF松井蓮之(れんじ)はこう語る。
「一緒にやってみないとわからない凄さがある。練習から常に周りに要求をしてくるし、その質が物凄く高いから僕らも陸にパスを出すんです。ゴールへの執着心が半端なくて、僕らがシュートを打ったら、必ずセカンドに反応してポイントに走り込んでいる。たとえ成功しなくても、何度もゴールに頭とスピードと使ってアプローチする姿勢はみんなに勇気を与えてくれるんです」
前橋育英では主将を務め、法政大でも同期のMF田部井涼(横浜FC内定)も続ける。
「陸は高校時代からいて欲しいところに必ずいるんです。しかもパスを出す瞬間にはマークを外してくれているので、僕らは決定的なパスを送ることができる。『ゴール前にボールを送れば陸がいる』と高校でも大学でも変わらぬ安心感がありますね」
本人は「周りがいいパスを出してくれるからこそ生かされているんです」と謙遜するが、身長の低さを感じさせないほどの長所は誰もが認めるところだ。
しかし、決してここまで順調だったわけではない。
「やっぱり背の低い選手はダメなのかと何度も思いました」と語るように、ここまでのキャリアを振り返れば、努力や工夫ではどうすることもできない現実と自ら望む未来とのギャップに苦しみ続けた葛藤がわかる。