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「たかが野球だ」ヤクルト高津監督がシカゴのブルペンで見た、合言葉「絶対大丈夫!」の原点 <昨年最下位からリーグ制覇へ>
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/25 11:05
ヤクルト・高津監督の「理想のチーム像」。その源流はMLB時代の“ブルペン”にあった
現役時代に積み上げたセーブ数は、NPBで286、メジャーリーグで27、韓国で8、台湾で26。世界を股にかけた計347セーブの勲章以上に、身につけた広い視野の野球観は指揮官としての礎となっている。
“絶対大丈夫”には根拠があった
監督2年目の今季、高津監督が何より心を砕いたのは、「ケガ人を出さないこと」だ。基本的なことのようだが、毎年故障者が続出しては失速するヤクルトにとっては大命題。最強の爆発力を持つ攻撃陣の一方で、投手陣さえ持ちこたえられれば……という点は長年の課題だっただけに、とりわけ投手陣のマネジメントには気を配った。
宮出ヘッドコーチは明かす。
「ケガ人だけは絶対に出しちゃダメだということは、キャンプから監督がコーチ陣に一番言い続けてきたこと。練習内容、練習時間、ボリューム……選手やトレーナーとコミュニケーションをとりながら細やかに話し合いを重ねました。目の前のことではなく、シーズン全体の戦いや、この先の選手生活、ということまで考えて管理する監督のマネジメント能力の高さというのは凄く感じましたね」
9月17日から26日にかけての巨人、広島、DeNA、中日との10連戦では、優勝争いの大きなヤマ場にも関わらず先発陣に無理を強いることなく8人を起用してやりくり。中継ぎ陣も連投を制限するなど、1シーズンを見越して投手陣のマネジメントを徹底してきた。阪神、巨人との大接戦のなか、ヤクルトが最終盤の9月、10月に圧倒的な強さを発揮できたのは、指揮官が言葉だけでなく“絶対大丈夫”な環境を整備してきたからだと言えるだろう。
ヤクルトの過去7度のリーグ優勝を振り返れば、歓喜の瞬間のマウンドに最も多く立ち会ってきたのが高津監督その人だった。日本シリーズでは4度胴上げ投手となり、両腕を突き上げ女房役の古田敦也に抱きつく、くしゃくしゃの笑顔は印象的だ。
残すは3試合。26日のDeNA戦(横浜)に勝ち、阪神が同日の中日戦(甲子園)に敗れれば、守護神としてではなく監督として初めて立つ頂点の歓びが訪れる。「さあ、靴のひもを結んでくれよ!」。いざ、決戦へ。しびれる勝利の先には、選手たちの笑顔の輪の中へ飛び込む至福の時が待っている。