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「たかが野球だ」ヤクルト高津監督がシカゴのブルペンで見た、合言葉「絶対大丈夫!」の原点 <昨年最下位からリーグ制覇へ>
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/25 11:05
ヤクルト・高津監督の「理想のチーム像」。その源流はMLB時代の“ブルペン”にあった
スポーツ紙のヤクルト担当記者時代、投手コーチだった高津監督の連載を担当する機会に恵まれた。「理想のチーム像」について、こう話していたことが印象的だ。
「最高に楽しい集団でありたい。グラウンドに来るのが毎日楽しいと思えるようなチームが理想。楽しさとは、勝つ喜び、なんだよね」
そんな理想の原点は、03年のオフにフリーエージェント権を行使して移籍したメジャーリーグ、シカゴ・ホワイトソックスのブルペンにあった。
「大丈夫。“たかが野球”だ」
本拠地の左翼後方、半地下になった小部屋で日本から来た「守護神・高津」はいつも出番を待っていた。ブルペンの“主”は、洞窟という意味の「ケイブ」というニックネームで呼ばれるブルペンコーチのアート・カスナイヤー氏。当時でも60歳近かった白髪頭の名伯楽は、常にリリーフ投手たちを陽気に盛りたて、とびきりポジティブな言葉で背中を押した。
ベンチから電話を受けるとケイブは決まって高津にこう言った。
「さあ、靴のひもを結んでくれよ!」
リラックスするために登板直前までスパイクのひもを緩めている守護神へ、それが出番の合言葉だった。
暗い表情をしていると、ケイブは「大丈夫。“たかが野球”だ」と声をかけてくれたという。思うようにいかないピッチングも、打たれて降りるマウンドも、長い人生のなかではほんの一部でしかない。だから暗い顔をせず、野球を楽しもう――。そんな言葉だった。
投球を受けるブルペン捕手をつとめていたのは、韓国人の李萬洙だった。現役時代は韓国プロ野球のサムスンで16年間捕手としてプレーし、三冠王を獲得。「韓国のベーブ・ルース」と言われるスター選手にも関わらず、引退後に指導者になる武者修行のため単身渡米。裏方に回っても誰より大きな声を張り上げ、ムードメーカーとしてチームを支える姿にいつも背中を押された。
「野球人としての生き方を彼らから学びました。野球は楽しむものだし、野球選手であることを幸せに思わないといけない。指導者としてそれを伝えたい」