マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
プロ野球スカウトたちが明かすドラフトの“ウラ側”「担当選手の指名で涙…」「支配下の候補は約70人」「育成は事前打診が一般的に」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/16 11:03
今年のドラフト会議。写真は1巡目、西日本工業大・隅田知一郎の抽選。ヤクルト・高津臣吾監督がくじを引くシーン
「推して、推して、推して……やっとですよ。押し込みました……。だって、僕見てますから。あいつが、練習休みの日にも、1人だけグラウンドで練習してたの。練習休みの日に、僕それわかってて行ってるんですよ。だから、確信あるんです。そういうとこ、汲んでくれなくちゃ。僕らスカウトは……」
目を真っ赤にして、それ以上は言葉にならなかった。
練習が休みの日までグラウンドに足を運んで、野球への取り組み方を確かめたその選手は、今もその球団でなくてはならないユーティリティ・プレイヤーとして奮闘中だ。
「赤いパンツの話聞いて、涙出ましたもん」
「1位指名の候補の中に自分が推した選手が入っている年は、もう1カ月ぐらい前から、なんでもゲン担ぎですよ。神社、仏閣の前、通れば、必ずお参りするし、急に親の墓参り行ったり、自分の行動もなるべくいいことしてね。電車で席譲ったり、家帰ったら、靴揃えて脱いだり」
ドラフト当日は、プロ初のスタメンだった時より緊張したという。
「大瀬良(大地・現広島カープ)の時に、広島のスカウトの田村(恵)さんが、赤いパンツ履いて、抽選したじゃないですか。あの気持ち、ほんとに、すごくすごく、わかるなぁ……。狭い担当地区の中で、勝負賭けられる選手なんて、何年に1人ですからね。私、赤いパンツの話聞いて、涙出ましたもん。何年か前に、私が1位に推薦した選手が抽選で当たった瞬間、やったー!って叫んだつもりが、口の中カラカラになってて、ハッハー!みたいになってねぇ(笑)」
10月11日、今年も「ドラフト1位」の12人が決まった。それは同時に「ドラフト1位担当スカウト」12人も決まったことを意味する。
「今日のスポーツ新聞に、DeNAスカウトの八馬(幹典)さんの談話が出てましたけど、担当の徳山(壮磨・早稲田大・2位指名)と三浦(銀二・法政大・4位指名)が投げ合って、『ネット裏でドキドキしながら見てました』って(10月12日の六大学野球)。だって、目の前で息子が2人投げ合ってるみたいなものじゃないですか。結局、0対0の引き分けで、どちらも無失点なんて、最高の結果ですよね。私、その場にいたら、きっと『八馬さん、おめでとう!』って叫んでたと思いますよ」
一方で、今年は担当する指名選手を持たないスカウトたちもいる。
だからといって、彼らは、家で寝ているわけじゃない。すでに始動している「2022年ドラフト」めがけて、人知れず、担当地区をまわり、候補となる選手たちを探し歩く。表舞台に立つことはなくとも、彼らは間違いなく、「プロ野球の輪郭を描き続ける人間たち」なのだ。