マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
プロ野球スカウトたちが明かすドラフトの“ウラ側”「担当選手の指名で涙…」「支配下の候補は約70人」「育成は事前打診が一般的に」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/16 11:03
今年のドラフト会議。写真は1巡目、西日本工業大・隅田知一郎の抽選。ヤクルト・高津臣吾監督がくじを引くシーン
「秋は忙しいですよ。昼間、大学のリーグ戦見て、終わって帰ろうかな……と思うけど、そのあとで、高校の新チームの練習に行ってみる。正直、しんどいですよ。でも、それでも、ちょっと行っとこうと思うのは、高校生って1週間で劇的に伸びることがあるんですね。そこを逃したくない、この目で確かめておきたいっていう……ね」
1日の中でレベルの違う野球を見て、選手を「観察」する。
「昼間の大学生は、来月指名する選手たち。隅々まで正確に見えるメガネで見る感覚。夕方見るのは来年の候補ですから、逆に度の弱いメガネで長所だけを見る感覚。メガネをかけ替えるつもりでね」
新チームの高校生を見て、秋の大学リーグ戦を見て、社会人野球でも秋に全国大会があって、その時点で、各球団およそ200人~300人の選手を、翌年のドラフト候補に挙げて、年明けの第1回スカウト会議に持ち寄る。
今は各球団に10人前後のスカウトがいて、それぞれ地区別に担当を持っているから、この時点で1人当たり20人~30人の「候補」を球団に挙げているわけだ。
「まだこの時点では確信の持てる選手、デカくて、強くて、速くて……なんて、何人もいない。実戦力については、春からの試合で確かめて。小さいけど、いいなって選手たちも、春からですね、リストに入ってくるのは。デカいけど、野球はあんまり上手くない……そういうタイプと入れ替わってね」
「もっと勉強してください!」
じつは春から夏、スカウトたちは「秋」より忙しい。独立リーグの試合も増えるからだ。
足だけなら、とんでもなく速い……いわゆる、「一芸」がある選手たちが集まるのが独立リーグで、そこでバッティングの腕を上げれば、今度はプロの対象になってくる。スカウトはこう話す。
「今は、安倍さんみたいな仕事の人が増えて、ネットでいろんな選手を教えてくれるから“隠し玉”なんて、昔の話になってしまいましたね」
ネット上の情報すべてを一緒にして欲しくないような気もするが……。
「ネット情報って、ガッカリさせられることのほうが、圧倒的に多いですから。はっきり言って、“情報”になっていないことのほうが多いですよ。単なる“ガセネタ”がほとんど」
このスカウトの方、怒っているようだ。