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プロ野球スカウトたちが明かすドラフトの“ウラ側”「担当選手の指名で涙…」「支配下の候補は約70人」「育成は事前打診が一般的に」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/16 11:03
今年のドラフト会議。写真は1巡目、西日本工業大・隅田知一郎の抽選。ヤクルト・高津臣吾監督がくじを引くシーン
「“最速148キロ”という情報につられて見に行くじゃないですか。僕ら、アベレージでしか評価しませんけど、135キロ前後でしたよ。その上、クイックはできない、けん制もできない、投げた後は投げっぱなしでバント処理もできない。
もっと勉強してください!って言いたい。だから、なるべくムダ足しないように、以前よりスカウトの間で情報交換するようになったように思いますね。無駄な時間を使いたくないですから、僕らも」
お叱りをいただいてしまった。もっともなお話だと思う。襟を正したい。
「“育成”でもよろしいでしょうか……」
スカウトの方の話は続く。
「春から夏に向かって見ていく中で、ケガで消える、進学希望で消える、実力が思ったほど上がらなくて消える……200~300人いた候補が、夏の甲子園までに100人ぐらいに絞られて。甲子園の後に進学、就職を決める選手がいるから、最後は70人ぐらいですね、毎年」
支配下ドラフトで候補70人。育成ドラフト用には、別にリストを作成するが、こちらの人数は球団によってさまざまだという。
「『場合によっては“育成”でもよろしいでしょうか……』。支配下ドラフトの候補で、下位にまわった選手には、一応そう打診してみるのが当たり前になりましたね。えっ? 私の息子が育成指名を打診されたとしたら……? 全力で阻止します」
複数のスカウトに、同じことを訊いてみた。全員が同じ回答だったから、驚いた。
「これは完全に個人的な考えとして聞いてほしいんですけど、よっぽど突き抜けた能力を持っていないかぎり、高校生なら進学したほうがいい。一段ずつステップを踏んで、野球の技術と体力を身につけて、日本じゅうのヤツとつき合って。いろんな勉強して、それからでもぜんぜん遅くない。だって19で大人の世界に入って、30過ぎの選手とやり合うんですよ……なんて言いながら、今年もドラフトやるんですから、僕ら」
「僕見てますから。あいつが1人だけで練習してたの」
ある年のドラフト会議で、こんな場面があった。
会場の大会議室を出て、ロビーの壁にグッタリともたれ込んでいるスカウトが1人。