メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
「大谷翔平効果で少年野球の入団希望者が急増している」って本当? 取材して分かった少年野球の“深刻な現実”「一番の問題はケガ」
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph byGetty Images
posted2021/10/01 11:05
45本塁打&25盗塁&100得点というア・リーグ史上初の快挙を達成した大谷翔平
「美味しいお酒が飲めるんですよ」
「選手を守る観点から、それぞれの大会で投球制限ルールはあります。球数だとか、何イニング投げてはいけないとか。しかしこれには抜け穴があり、大会が異なれば1日3試合を連投することも可能なのです。さらに、投手だけではなく捕手の負担も見過ごせません。学童野球では四球で出たランナーが二盗、三盗を決め、エラーで得点というパターンが多く、それにつれて捕手が投げる機会も相当数に上るからです。1試合目、2試合目を完投した投手が3試合目は捕手として出場するというケースもゴロゴロあります」(上田氏)
指導者たちは、なぜこんなにも無茶な試合を組むのか。
「試合に勝つと子どもたちも喜ぶし、指導者もその日は美味しいお酒が飲めるんですよ。だからどんどん公式戦にエントリーしてしまう。だけど、負けたら終わりのトーナメントでは、上手な子が出続けるしかありません。その陰には、ずっと試合に出られない子がベンチにいるわけですから、勝利の味のために他のものを置き去りにしているんです。我々大人が子どもたちに教えるべきは、野球の楽しさであり、第一に願うべきは、その気持ちを持ってできるだけ長く野球をやってほしいということでしょう」(上田氏)
同じチームでも親が“二極化”している
指導者の意識を改革しようと、連盟側も動き出している。東京都軟式野球連盟では、指導者資格の取得を各チームに促しており、2024年シーズンからは、一人以上の資格保有者のベンチ入りが義務付けられることになった。牧野氏は、制度導入でチーム全体の技術向上とマナー、フェアプレーの徹底を目指しているというが、その結果、チーム間に選手の獲得競争が起こりそうだ。
「全軟連公認学童コーチ資格を取得するには、7時間ほどの講習が必要になります。体罰・暴力・ハラスメントの根絶や、リスクマネジメント、スポーツマンシップ、医学的知識など科目は多岐にわたります。いまのチームは、来る人を待っているのではダメで、選んでもらえる努力をし続けなければなりません。見ていて楽しそうだなと思えるチームに子どもは入りたいし、親も選手に罵声を飛ばす古い指導者がいるようなチームには子どもを預けません。今後は、子どもの体も心もケアできるしっかりした指導者がいるチームと、そうではないチームで選手数の格差がますます広がっていくでしょう」(牧野氏)
加えて、東京都軟式野球連盟では、小学校低学年へのアプローチも展開中だ。