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「大谷翔平効果で少年野球の入団希望者が急増している」って本当? 取材して分かった少年野球の“深刻な現実”「一番の問題はケガ」 

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沼澤典史

沼澤典史Norifumi Numazawa

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posted2021/10/01 11:05

「大谷翔平効果で少年野球の入団希望者が急増している」って本当? 取材して分かった少年野球の“深刻な現実”「一番の問題はケガ」<Number Web> photograph by Getty Images

45本塁打&25盗塁&100得点というア・リーグ史上初の快挙を達成した大谷翔平

「学童野球のさまざまな構造を改善しなければ、たとえ大谷選手やプロ野球、甲子園の盛り上がりを見ても、子どもたちは野球をしたがらないのではないか。今でもパワハラまがいの強い言動で指導していたり、土日は朝から晩まで練習したり、親御さんがお茶当番をしたりと、学童野球には旧態依然とした部分があります。そしてなにより深刻なのは、多数の故障者の存在です」

 上田氏は、慶應高校野球部の監督を1991年から2015年まで務め、春夏あわせて計4回、チームを甲子園に導いている。そのうちベスト8進出は2回。名将と謳われる人物だ。

「監督を退任した後、スポーツドクターの話を聞く機会があり、驚きました。『神奈川県では、毎年20人以上の小学生が、肩や肘を手術している。なかには、トミー・ジョン手術を受ける子もいる』と言うんです。主な原因は指導者の知識不足に加えて、試合数と投球数の過多。そこで、少年期のスポーツ障害を予防するための組織として、2017年に『神奈川学童野球指導者セミナー』を立ち上げたんです」

『うちは年間230試合やりますよ』

 かくして上田氏は各地の学童野球チームを視察して回り、その中でさらに危機感を強くしていったという。

「かつて2000チームがひしめいていた神奈川県内の学童野球は、いまや500チームに激減。その一方で、ローカル大会は驚くほど多く開催されています。企業が地元への社会貢献を考える際、学童野球大会の開催は好まれる手法なんですよ。球場を借りてメダルと優勝旗を作るだけで、知名度も上がるし、なんとなく好感度も上がりますからね。こうしてチームや選手数が減るなかで試合数は増え続けているため、故障者が相次いでいます。なにしろ1日に朝昼夕と、それぞれ違う大会の3試合を行うチームもあるほど。『うちは年間230試合やりますよ』と胸を張る指導者さえいました」

 全日本軟式野球連盟は、2019年に「練習試合を含めて、年間100試合以内」と学童野球のガイドラインを定めている。つまり、これを上回る試合数を組んでいるチームが常態化していたということだろう。ちなみに、月曜以外は稼働しているプロ野球は140試合ほど。学童野球の試合は主に土日・祝日に組まれることを考えると、年間100試合をこなすだけでも大変だ。

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