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「大谷翔平効果で少年野球の入団希望者が急増している」って本当? 取材して分かった少年野球の“深刻な現実”「一番の問題はケガ」
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph byGetty Images
posted2021/10/01 11:05
45本塁打&25盗塁&100得点というア・リーグ史上初の快挙を達成した大谷翔平
「年々、減少傾向なのは間違いなく、選手数が増加したと感じた年は残念ながらありませんね。2010年には96チーム2477人の登録がありましたが、今年は65チーム(前年比7減)で、選手数は1294人(同137減)。江戸川区では女子の学童野球が活発で、ここ5年は100~120名で安定していますので、相対的に女子選手の割合が上昇しました。大谷選手の試合を動画などで見ている選手は多いようですが、大谷選手の影響で選手数が増えたという実感はないです。ただ、4月時点で集計した数字なので、そこから現在までの増加を、把握できていないだけかもしれませんが……」
「野球をする機会自体が減っていますから」
SNS上でウワサされた大谷効果はどこに隠れているのか。大谷が本領発揮して大暴れを始めたのは、メジャー4年目となる今年4月からのこと。そう考えると、4月以降に大きな変化が起きている可能性がある。そこで、東京都の各自治体の軟式野球連盟を束ねている、東京都軟式野球連盟に尋ねたところ、牧野勝行専務理事はこう話した。
「今年6月末時点での学童野球の登録選手数は、東京都全体で1万7161人となっています。2020年12月が1万8180人ですから、大谷選手の活躍による登録選手増加の実感はありません。コロナ禍による感染対策でグラウンドを貸してもらえなかったり、練習や大会ができない地域もあるため、大谷効果があったとしても打ち消されているのではないか」
実際、コロナ禍の直前の2019年12月は1万9028人であり、その減少ぶりはつるべ落としのようだ。大谷がいかに超人といえども、この流れを跳ね返すのは容易ではないだろう。
野球用具の販売数値も、かんばしくはないようだ。野球用具メーカーや卸業者21社によって設立された一般社団法人「野球・ソフトボール活性化委員会(球活委員会)」に聞いた。
「たしかに、大谷モデル商品の売れ行きはよく、大谷選手の人気があることは間違いありませんが、全国的に見ても野球用具の売り上げや問い合わせは目立って増えてはいません。過去に高校野球で松坂大輔選手が活躍されたときや、イチロー選手がメジャー入りなさった際には野球人口が増え、商品販売数が伸びたことがありました。それを考えると、今回は大谷効果が現れていないのは、コロナ禍が大きくマイナスの影響を与えていると思います。なにしろ野球をする機会自体が減っていますからね」
どうやら、SNS上で大谷効果と呼ばれている現象はきわめて局地的であり、球界が望むようなムーブメントにはなっていないようだ。
「深刻なのは、故障者です」
では、近い将来、コロナ禍におびえる人々が減り、野球の活動が正常化されたときを想像してみよう。そして大谷は相変わらず打ちまくり、勝ちまくっているとしよう。その場合、軟式野球を楽しむ小学生は増えるだろうか。
慶應大学野球部のコーチを務める上田誠氏は、異を唱える。