セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
インテルの胸から「PIRELLI」のロゴが消滅、メッシのボーナスの一部はトークン支払い… 仮想通貨はサッカー界の救世主か?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/09/15 11:00
長年のインテルのユニフォームの胸に刻まれてきた「Pirelli」のロゴが今季からは見られなくなった
購入者が先発も交代も決められるように
現地のインテリスタたちの間でもトークン導入への賛否は分かれている。
7月下旬にインテルとの4年契約を正式発表したソシオズ・ドットコム社の創設者アレシャンドレ・ドレイフスが、伊紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューに応えた。
43歳の彼は、きっととんでもなく頭脳明晰なのだろう。
インテルのファントークン発行数はトータルで2000万枚を予定していること、購入者層の20%がイタリア国外になると予測していることなど、明るい展望の言葉を並べた。
「我々の事業は、より若くよりデジタルな次世代層へ向けたものです。Netflixでテレビシリーズを見つつ、フォートナイトを遊びながらスポーツコンテンツを消費する、そんな層ですね。張会長は我々のビジョンをすぐに理解してくれました。胸スポンサーになったのはあくまでも手段です。イタリアから遠いところにいるインテリスタにこそ訴えたい。あなたたちは1人ではないよ、あなたたちの情熱を形にする方法はあるよ、と」
ドレイフスは屈託のない笑顔でこうも言った。
「いつかは我々がサポートする4クラブ同士でテストマッチを組んで、トークン購入者が先発も交代も決められるようにしたい」
『ガゼッタ』紙の記者がスクデット連覇の可能性について尋ねると、彼は「そんなこと、わかるわけないじゃないですか、私に聞かないでくださいよ」と臆面もなく言い放った。
「私はただデジタル分野が好きなだけで、チームのことは何も知らないんです!」
彼は今夏の大きな補強だったMFチャルハノールの名前すら知らなかった。
事業者が相手にするのは知名度のあるクラブだけ
チケットを買い、レプリカ・ユニフォームやグッズを購入したりすることが、クラブの収入増につながり、ひいてはチーム強化になる。それが従来のファンの応援の仕方だった。
ファントークンがクラブとファンを結びつける「WIN&WINの関係」というなら、それは小さな地方クラブにこそ必要なこと、有益なことではないかと思う。
だが、トークン事業者が相手にしているのは、今のところ知名度のあるクラブだけだ。ソシオズ・コム創設者の興味はデジタル投機対象の拡大にしかないと思えてならない。
ファントークンは、サッカーファンと為替トレーダーを隔てるものは何か、という問いを突きつけている。
近所の整備工場で我が家の車用にピレリ社のタイヤを買ったら、顔馴染みの親父から「インテルにお布施したな」と言われた。工場の壁では、10番をつけていた頃の“怪物”ロナウドを、リオ・デ・ジャネイロのコルコバードの丘にある巨大キリスト像に模した、ピレリの有名なポスターが色褪せていた。
1998年のUEFA杯優勝から苦難の時代を経て2010年の3冠“トリプレーテ”まで、ピレリの白抜きロゴはずっとインテルの胸元にあった。
26年後、インテリスタたちはソシオズ・コム社のロゴを覚えているだろうか。