スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
大谷翔平とふたりの難敵。ホームラン争い激化のシーズン終盤、二刀流はペレスとゲレロの猛追をかわせるか?
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2021/09/10 06:00
(左から)ペレス、大谷、ゲレロJr.。この3人とも打撃部門のタイトル獲得経験はない
とくにペレスの量産ぶりが凄い。いままでは、平均すると年間25本塁打前後の中距離打者だったのに、今季は9月6日の時点で41本塁打。このハイペースには舌を巻くほかない。シーズン後半に入って球をよく見極めるようになったのは好調の大きな理由だろうが、31歳という年齢も、心技体のバランスをもっとも整えやすい時期だと思う。
先ほどの大谷と同じスパン(8月1日~9月6日)で見ても、32試合に先発出場して15本塁打という数字が圧倒的だ。とくに今季は固め打ちが多く、1試合2本塁打のケースが5度(6月3度、8月2度)もある。8月下旬に5試合連続本塁打を放ったことも記憶に新しい。
もともと身体の頑健な捕手だけに(9月5日の対ホワイトソックス戦、味方投手ドミンゴ・タピアの投じたワンバウンドの球がむき出しの首筋に命中するというアクシデントがあったのに、まったく休まなかった)、だれもが疲れを実感しはじめる9月中旬以降、とんでもない底力を発揮するかもしれない。打点も現在リーグトップ。不気味なダークホースが出現してきたものだ。
ライバルたちは二冠狙い
もうひとりの怪物ゲレロも、この2週間ばかり、猛烈な巻き返しを見せている。
開幕直後から三冠王に向けて順調な歩みを見せていた彼だが、7月18日から8月24日にかけての35試合では、打率.244、本塁打6本と、かなり苦しい状態だった。7月末に.328だった打率も一時は.308にまで低下し、長丁場の洗礼を受けているかに思えた。
ところが、8月25日から9月6日にかけてのゲレロは、12試合で打率.431、本塁打4本と明らかに復調の兆しを見せている。9月6日時点での本塁打数はちょうど40。
ゲレロはまだ22歳だ。いったん調子の波をつかめば、シーズン終盤といえども、若さの力で大爆発する可能性がある。9月6日の対ヤンキース戦で右翼席に叩き込んだ一撃などは、スイングといい打球の軌跡といい、現役時代の父ゲレロが本塁打を打つ姿を彷彿させるものだった。ペレスが本塁打王と打点王を狙えるのなら、ゲレロには首位打者と本塁打王の二冠を獲得するチャンスがある。
そんな怪物ふたりを相手に、大谷翔平は最後の直線をどう駆け抜けていくのか。
エンジェルスの残り試合日程を見ると、アストロズと7試合、マリナーズと6試合、ホワイトソックス、アスレティックス、レンジャーズとは各3試合ずつの対戦が組まれている。大谷が極端に苦手とするチームはないが、カモといえるチームも見当たらない。
ここはむしろ、9月17日から26日にかけてのホーム10連戦が、本塁打王を獲得できるか否かの分岐点になるのではないか。ポストシーズン進出がかかるアストロズやマリナーズやアスレティックスが相手の戦いは楽ではないが、ホームでの本塁打数が際立つ大谷だけに、ここで固め打ちを見せれば本塁打王の栄冠を手もとに引き寄せることができるだろう。これから月末にかけての戦いを、われわれは一喜一憂しながら見守ることになりそうだ。