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なぜ甲子園では完投させたくなってしまうのか? 地方大会は全試合“継投勝ち”でも…監督の本音は「ベンチは動きづらい」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/08/25 20:25
25日の甲子園3回戦。松商学園打線を完封(2ー0)し、雄たけびを上げる明徳義塾・代木大和投手
特に2試合を完投していた日本航空のヴァデルナは3回戦の智弁学園戦で制球が定まらなかった。粘り強く投げていたが7回途中3失点。そののち、今大会初登板になったリリーフ陣が精彩を欠いて智弁学園打線を抑え切れずに、1−7で敗退している。県大会のような複数投手の強みを生かせなかった。
日本航空・豊泉啓介監督は、1、2回戦の投手起用についてこう語った。
「後ろで投げる投手が甲子園に入ってから調子が良くなかったんです。その影響でエースのヴァデルナを引っ張ることが多くなってしまった。交代機を迷っていたのが正直なところで、それが(2試合連続)完投になってしまった。場面場面で送り出せる投手を作っていかないといけないのかなと思いました」
本来の戦い方をしなかった。いや、できなかった。
“96球完投”の智弁学園は何が違ったのか?
26日の準々決勝で対決する智弁学園と明徳義塾。3回戦ではそれぞれ先発投手が完投している。日本航空のケースと異なるのは、それまでに無理な登板をしていなかったことだ。
智弁学園は1回戦の倉敷商、2回戦の横浜戦ではエースナンバーの西村王雅が先発して7回以上を投げている。3回戦で先発して完投した小畠一心はこの2戦で、クローザーとしてマウンドに上がったのみ。いわば、ベストな状態で臨んできた。
完投後に小畠はこう振り返る。
「1回に1失点して流れを持って来られなかったことは反省ですけど、守りからリズムを作ろうと思った。カウントが悪くなるとリズムも悪くなると思ったので先に追い込もうと思った。(甲子園で)全く投げていないでマウンドに上がるのと違うので、そういう部分で入りやすかった」
小畠は日本航空相手に9回を投げて3安打1失点で無四球完投。球数はたったの96だった。
智弁学園の小坂将商監督は「小畠は右のエース。安定感がある」と評価していて、西村との左右二枚看板で今大会を戦うつもりだ。1、2回戦を西村に頼った分、この日は小畠に1試合を任せるというマネジメントを施したのだ。
「ここで自分が投げ切らないと…」
明徳義塾は3回戦でエース・代木大和が完封勝利。1、2回戦で先発に上がったものの、ともに勝利投手にはなっていない。1回戦は6回途中、2回戦では5回途中でマウンドを吉村優聖歩に譲っていた。