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なぜ甲子園では完投させたくなってしまうのか? 地方大会は全試合“継投勝ち”でも…監督の本音は「ベンチは動きづらい」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/08/25 20:25
25日の甲子園3回戦。松商学園打線を完封(2ー0)し、雄たけびを上げる明徳義塾・代木大和投手
「ここで自分が投げ切らないと3年間、なんのために練習を積んできたかわからない」
こう語った代木はこの日、序盤からストレートが走り、カットボール、カーブとうまく使い分けて松商学園打線にほとんど連打されなかった。3安打完封勝利。エースの意地を見た試合でもあった。
馬淵史郎監督は代木の完投についてこう語っている。
「ストレートが低くて、ボールが来ていました。今日の調子だと連打を食わないなという感じで見ていました。勝ち投手になれってハッパをかけたりしたんですけど、でも、最初にいったのは3回まで0点でいって欲しい、理想は6回まで0点がいいと冗談で言っていたんです。9回までよく抑えてくれました」
智弁学園はエースの西村を温存できたし、明徳義塾は吉村が1球も投げずにすんだ。準々決勝の対決が楽しみである。
プロ野球のような思い切った継投も
一方、指揮官が見事な決断を見せて、ベスト8入りを決めたのが石見智翠館だ。
3回戦の日大山形戦。就任して24年目のベテラン・末光章朗監督は5回表1死一、二塁のピンチの場面で動いた。
「先発したエースの山崎(琢磨)が2回戦の弘前聖愛戦で完投していて疲れがあったのもありますし、日大山形の打線には主軸に左バッターが多かった。打順も3周り目で慣れてきた頃でもあったので、目先を変えるには一番いいタイミングかなと思って、変則左腕の山本由吾を起用しました」
半年前に肘を下げた変則左腕の山本は、1、2回戦で猛打を振るった日大山形の3番・佐藤拓斗を空振り三振。4番の伊藤翔海を投手ゴロに斬り、ピンチを脱したのだった。そして続く6回にチームは一時逆転。流れを作ったのは紛れもなく山本だった。
勝負所で左腕を相手の主軸左打者に充てる。まるでプロ野球のリリーバーを投入するかのような思い切った選手起用だが、末光監督はこう振り返る。