甲子園の風BACK NUMBER
共有音源はあえて使わずに…智弁和歌山、近江など応援名物校の“プライド”とブラバン録音秘話 「甲子園DJ」のパフォーマンスも凄い
text by
梅津有希子Yukiko Umetsu
photograph byYukiko Umetsu
posted2021/08/26 06:00
戦況をつぶさに読み、「ジョックー!!」と”魔曲”『ジョックロック』の演奏指示を出す、智弁和歌山応援団顧問の坂上寿英氏(2019年撮影)
タイミングが難しい智弁和歌山『ジョックロック』は…?
「1番打者はこの曲」「3回は通しでこの曲」「ヒットが出たらこの曲」といったシンプルな指示書なら特に問題はないが、当然ながらルールは全校異なるし、さまざまなこだわりのリクエストがある。
智弁和歌山(和歌山)といえば、“魔曲”として知られる『ジョックロック』が名物曲だが、通常は、応援団顧問の坂上寿英氏が戦況を見極めながら、「次ロック!」とその場で指示を出すため、毎回流れるタイミングが違う。「チャンスになってから」ではなく、「チャンスになりそうな時」に指示を出す、この見極め力が、「あの采配は坂上先生にしか出来ない」と他の教員もみな口を揃えるほど絶妙なのだ。
しかし、今回は録音音源。甲子園DJに采配を頼むわけにもいかないので、今回は「4回以降、ランナーが2人出たらかける」というルールにしたという。ところが、24日の高松商戦を見ていると、たしかに4回以降からランナー2人出塁で『ジョックロック』がかかったが、7回になるとランナーは1人で、2塁に進んだタイミングでかかった。「甲子園DJが間違えたのかな?」と思い、坂上氏に確認すると「7回以降はランナーが1人でも、2塁に進むとかけるルールに変わる」のだという。こんな細かな指示にも、うっかり間違えずに対応する甲子園DJの正確性に、思わずうなった。吹奏楽部顧問の酒越光覚氏も、「期待以上でした」とその手腕に驚く。
近江はコール入りで録音→女子中心の元気な雰囲気に
20日の第1試合から学校に戻った後、即録音に取り掛かったのは近江(滋賀)。洋楽5曲を繰り返す構成のため、音源をかけるルールはシンプルだが、問題は、ランナーが2塁に進んだ際に流れるチャンステーマの『Fireball』だ。ピットブルのラップ曲で、ラップ部分に野球部が考案した以下の掛け声を、コール&レスポンスで叫ぶスタイル。
“今日の主役はどこですか 近江高校
チャンスをつかむのはどこですか 近江高校
勝負に勝つのはどこですか 近江高校
優勝するのはどこですか 近江高校”
つまり、このコールがないと成り立たない応援のため、急遽声入りで録音することに。通常は、「今日の主役はどこですか」の部分を野球部がコールし、一般生徒たちが「近江高校!」と応える。しかし、甲子園から帰ってすぐに録音したため、野球部とタイミングを調整するのは不可能だったことから、今回はすべてのコールを吹奏楽部が担当。女子部員が多いため、いつもの力強い野太いコールではなく、女子中心の元気なコールが甲子園に響くこととなった。テレビ中継を見ていても、音だけの応援よりも確実に選手たちの力になっていると感じたし、4点差をはねのけ、大阪桐蔭に6-4で逆転勝利を収める原動力になったに違いない。