甲子園の風BACK NUMBER
〈大阪桐蔭・盛岡大付を撃破〉近江「163cmの16番」の覚醒と重要任務とは? 1ケタ背番号を“剥奪”、継投時に交代させられても…
posted2021/08/26 11:03
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Kyodo News
「どんなガッツポーズをしたか覚えていないです」
淡々とインタビューに答えていた、この試合の主役は視線を左上に少し上げて記憶を辿った。勝利を手繰り寄せた一打。本人は覚えていなくても、チームメートや相手選手の頭には「明石楓大」の姿が刻まれている。
ベスト8をかけた盛岡大付属との一戦。1点をリードしていたが、試合の流れは相手に傾きかけていた。近江は3回に点差を3点に広げて、なおも1死一、二塁のチャンス。ここで、盛岡大付は背番号1の渡辺翔真を投入する。22日の沖縄尚学戦で8回2死まで完全試合をするなど、2試合連続で完封した力は本物。近江は勢いを断たれた。エースの登板で相手ベンチの雰囲気は一変。直後に2点を失い、1点差に迫られた。
流れがいきかけた中での大きな2安打
今大会失点ゼロの渡辺は予想していた通りの難敵だった。近江は打順ひと回り、打者9人を完ぺきに封じられた。近江ベンチに重い空気が漂う。6回1死。明石が打席に入る。
「次の1点が大事。意地でも1点取る」
カウント2ボール1ストライクから、低めのスライダーをすくい上げ、ライト線へ運ぶ。
転々とする打球を一瞥すると、加速して二塁ベースを蹴る。身長163cmの体を目一杯伸ばして、三塁にヘッドスライディング。両手を大きく叩いて、左手のこぶしを握った。続く打者は凡退して2死となったが、8番・横田悟の適時打でホームイン。近江は試合の流れを左右する貴重な1点を、今大会無失点だった盛岡大付の渡辺から奪った。
明石のガッツポーズは、これだけでは終わらなかった。続く、7回の攻撃。2死満塁のチャンスで打席が回ってきた。今度は直球を弾き返す。打球がセンターへ抜けるのを確認すると、右手のこぶしを2度突き上げた。