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五輪4位で「引退しちまえ」SNSで誹謗中傷を受けたイタリア人スイマーがIOC委員になったワケ「どんな罵詈雑言がきても…」
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/08/11 11:02
東京五輪に出場したベッレグリーニは、SNSでの誹謗中傷にも問題提起した
“心の疚しい者が人を疑う”というイタリアの諺
片時もスマホを離そうとしない今どきの選手たちは、いざ個人攻撃が自身に向けられたときに精神を蝕まれ、ベストパフォーマンスを発揮できない可能性があり、さらに、それがチーム全体に伝播するリスクもある。
マッザンティ監督の言葉に現状と未来への憂いがあったとしても、ネットの世界では技術的な敗因分析とはまったく別の角度から「責任逃れだ」「セルビアもSNSを使ってるだろ」「負け犬」と、批判の泥が飛んだ。
イタリアには“心の疚(やま)しい者が人を疑う”という古い諺があるが、スポーツ界におけるSNSの功罪については冷静な議論が必ず必要になるだろう。
100m王者ジェイコブスとメンタルコーチ
今大会では、メンタルコーチという職分にも注目が集まった。
陸上男子100mでイタリアに驚きの金メダルをもたらしたラモントマルセル・ジェイコブスには、ニコレッタ・ロマナッツィというメンタルコーチがついている。
レース前の精神集中に難のあったジェイコブスに対話と独自の呼吸法によるメンタルマネージメント改善術を施した女性コーチは、空手男子組手75kg級で金メダルをとったルイジ・ブーザや空手女子形銅メダリストのビビアナ・ボッタロら計5人のクライアントを送り込んだ。彼女のコーチングを受ける顧客にはセリエA選手も多い。
「一人のアスリートにとって肉体と技術の強化は基本ですが、ポテンシャルと才能を引き出すためにはメンタルのトレーニングとケアもとても重要です」(同コーチ)
困難があれば、サポートを得て戦えばいいのだ。一人で抱え込むことはない。
「私に対して一番厳しい批評家は私自身」
競泳界の第一線で長く活躍し続けてきたペッレグリーニは、泳ぐ人であり“戦う人”だった。批判を受ければ、無視するでも謝罪するでもなく、真正面から反論してきた。
「私に対して一番厳しい批評家は私自身。だから、どんな罵詈雑言がきても怯まない」
凛とした姿勢に憧れるシンパは競泳界に留まらず。体操女子のマルティナ・マッジョ(今大会団体総合4位ほか)やバネッサ・フェラーリ(同ゆか銀メダル)は、晴海の選手村で憧れのペッレグリーニを見かけるやセルフィーを頼み込み、インスタグラムに感激の投稿をした。