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五輪4位で「引退しちまえ」SNSで誹謗中傷を受けたイタリア人スイマーがIOC委員になったワケ「どんな罵詈雑言がきても…」 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2021/08/11 11:02

五輪4位で「引退しちまえ」SNSで誹謗中傷を受けたイタリア人スイマーがIOC委員になったワケ「どんな罵詈雑言がきても…」<Number Web> photograph by Getty Images

東京五輪に出場したベッレグリーニは、SNSでの誹謗中傷にも問題提起した

「一番がっかりして怒っているのは私よ!」

 それは予想の範疇だったが、自身のSNSアカウントのタイムラインにも「肩すかし」や「失望した」、「期待外れ」といった棘ある言葉が次々に流れ続けた。

「一番がっかりして怒っているのは私! メダルが取れなかったのは事実だけど、全力を尽くしたのにそんな言い草はないでしょ!」

 ペッレグリーニは反撃の投稿をして、大会後気持ちを切り替えるためにバカンスへ。友人とはしゃぐパーティの画像を投稿したら、それまで謗(そし)られた。

「パーティなんかやってる暇があるなら、レースで勝つことを考えろよ」
「楽しそうな写真を上げやがって。こないだの五輪でクソみたいなメダルを一つでも取ったのかよ」
「引退しちまえ」

 正当な休息まで誹謗されたペッレグリーニの心は凍りついた。

「もう呆れて笑うしかないけど、こういうことが続くと私の中で何かが少しずつ死んでいくのよね……」という投稿で現役引退をほのめかした(のちに撤回)ことで、当時のイタリアスポーツ界には衝撃が走った。

女子バレー敗退の原因にSNS?

 選手が引退を考えるほどSNSに追い込まれるケースがある一方、ソーシャルメディア依存を敗因に挙げる指導者も出てきた。

「選手たちには『SNSから距離をとれ』と言い続けてきたんだが……」

 東京五輪の女子バレーボール競技で、準々決勝敗退を喫したイタリアのダビデ・マッザンティ代表監督の敗戦の弁だ。

 イタリアはメダル候補の一角だったが、準々決勝でセルビアに0-3の完敗を喫した。試合終了直後、マイクを向けられたマッザンティ監督は、新世代の選手たちを把握しきれていなかったのでは、という問いかけに無念の表情で言葉を絞り出した。

「選手たちには、(メンタル・エネルギーを消耗する)SNSと距離をとれ、と言い続けてきた。大会が始まれば負ける試合もあり、外野からは必ず泥(=批判や侮蔑)が飛んでくる。その泥をかわし続けることは難しい。もちろんSNSのせいだけで負けたのではない。だが……」

【次ページ】 イタリアスポーツ界におけるSNSの功罪

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