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五輪4位で「引退しちまえ」SNSで誹謗中傷を受けたイタリア人スイマーがIOC委員になったワケ「どんな罵詈雑言がきても…」
posted2021/08/11 11:02
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
東京五輪が幕を閉じ、イタリア選手団は金メダル10個を含むメダル総数40個という華々しい成績を手土産に、帰国の途についた。
閉会式では、新たにIOCアスリート委員に選出されたイタリア競泳界のレジェンドスイマー、フェデリカ・ペッレグリーニが就任の宣誓を行った。
「私にとって最後の五輪が終わりましたが、今後もスポーツ界の役に立てるチャンスを与えられたことに感謝します。ただ、私は体制側ではなく、あくまで競技者の側に立って活動したい。特にアスリートのメンタルヘルスの分野に働きかけていくつもりです」
新委員のペッレグリーニが声を上げた背景には、SNSの爆発的普及に付随して起こっている、アスリートへの誹謗中傷問題がある。
今回、無観客開催となった東京五輪では、投稿動画プラットフォームのTikTokを初め、インスタグラムやフェイスブック、ツイッターといったソーシャルメディアが、かつてない規模で選手とファンを繋いだ。90年代、00年代生まれのアスリートが主流派となり、スケートボードやサーフィン、スポーツクライミングといった若者志向の新競技も成功に終わった結果、東京五輪に関するSNS投稿数は、全世界で37億回にも達したという。
リオで知ったSNSの恐ろしさ
イタリア女子スポーツ界の女王ペッレグリーニは、16歳で銀メダルをとった04年アテネ五輪の頃には存在しなかったSNSに早くから飛びついた。東京五輪でも、熱心な愛好家として選手村から自撮り画像を投稿したり、思いをつぶやいたり、インスタグラムに152万人以上いるフォロワーの共感を得た。文字の声援やハートマークが現役最後の五輪レースへ臨むエネルギーになった。
だが、ペッレグリーニはSNSが突如として牙をむく怖さもよく知っている。
前回の16年リオ五輪で、彼女はイタリア選手団代表として開会式旗手の大役を得た。身体も動き、事前タイムも上々、メダル獲得への期待は自他ともに高かった。
ところが――得意の200m自由形でメダルと僅差の4位に終わると、新聞やテレビといった既存メディアは手の平を返した。