オリンピックPRESSBACK NUMBER
「“姉妹で金”は無理」「直接対決は0-10」…殴り合いの喧嘩も超えて、“鈍臭い妹”川井友香子がリオ金・梨紗子に追いついた日《レスリング》
posted2021/08/06 20:30
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
JMPA
「いつかは私も梨紗子に追いつきたい」
2016年夏。川井友香子はリオデジャネイロ・オリンピックのレスリング会場で姉の川井梨紗子が女子フリースタイル63kg級で金メダルを獲得する姿を見て、ぼんやりとそう思った。
「梨紗子は同じ姉妹で一番身近な存在。でも、レスリング選手としては実力的にどんどんかけ離れていっていると思いました」
当時、友香子は大学1年生。シニアの国際大会にも出場し始めていたが、姉との実力差は歴然としており、まだシニアの全日本選手権で優勝したこともなかった。おまけにリオの3カ月前には肩をケガしたせいで、マット練習すらできない状況だった。
それでも、遥か遠い存在になった姉の活躍は、友香子にとって大きな転機になった。
「レスリングはできないけど、みんなの練習は見ている。そのときにこの競技に対する考え方が変わりました」
レスリング一家で育った、“お絵かきや読書好き”だった友香子
川井家はレスリング一家。父・孝人はグレコローマンレスリングの元学生王者で、母・初江は1989年の世界選手権に出場して7位に入賞している。梨紗子は小2から母がコーチを務める地元石川県のレスリングクラブでシングレットを着始めた。
そのとき友香子は、練習会場の隅っこでお菓子とゲーム機を与えられひとりで時を過ごした。レスリングをやり始めたきっかけも「姉に影響を受けて」ではなく、「母にもっとかまってもらいたくて」だった。実際にマット練習を始めても、姉のように友香子がレスリングにのめり込むことはなかった。
「いつか絶対にやめてやろうと思っていました」
姉妹とはいえ、性格は好対照。梨紗子は子供の頃から活発だったのに対して、3歳下の友香子はお絵描きや読書好きな女の子だった。
「子供の頃の友香子は、レスリングに向いていないと思っていました」(梨紗子)