友香子「“姉妹で金”は無理だろうな、と思っていた」

　このあたりから梨紗子と友香子は「姉妹で金」と口を揃えるようになったが、友香子の本音は違っていた。

「自分がこのレベルまで来られるとは思っていなかった。口では言っていたけど、無理だろうな、と思っている部分もあった」

　友香子には、もうひとつ問題が持ち上がる。一度負けたら、半ばパニックのような状況になり、なかなか気持ちを切り換えることができなかったのだ。2019年世界選手権の3回戦で敗れたときもそうだった。敗退直後に記者団の前に現れた友香子は途中で泣き崩れ、とても普通に話せる状況ではなかった。心の支えになったのは、同じ大会で優勝したばかりの梨紗子と現地に応援に訪れていた母からの泣きながらのゲキだった。

「絶対に諦めるな！」

　家族の後押しもあって、友香子は敗者復活戦を勝ち抜き3位に入賞。東京オリンピックの代表内定を決めた。その直後、友香子は家族への感謝の言葉を口にした。

「気持ちを切り替えるのに時間はかかったけど、（ここまで来られたのは）ふたりのおかげです」

友香子が金メダルを決めると、客席から微笑んだ梨紗子

前回覇者の梨紗子を苦しめた、一年延期

　一方、東京までの道のりは梨紗子にとっても平坦ではなかった。リオの時は最年少ということも手伝い、「吉田沙保里さんや伊調馨さんと一緒に行って、頑張れば何とかなる」と若さと勢いに頼ったうえでの出場だった。

　それが東京オリンピックでは日本チームのキャプテンとなり、チームをまとめなければならない立場になった。ギックリ腰になり、戦列を離れざるをえないときもあった。

「私はリオのときと絶対変わらないと思っていたけど、やっぱり変わっていましたね」

妹が金メダルを獲得した翌日、気合の入った表情で決勝戦に挑む梨紗子

　さらに新型コロナウイルスの感染拡大によって通常のマット練習ができなくなり、東京オリンピックが1年延期されたことも梨紗子の心に深い影を落とした。昨年6月に電話取材した際、梨紗子はこんな発言をしている。

「延期になることは何となく予想していました。レスリングは健康でないとできないので、状況的には残念というより仕方のないこと。私だけではなく、東京五輪に出場するアスリートにとっては試練が訪れている。それを全て乗り越えてのオリンピックなのかな、と」

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