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「“姉妹で金”は無理」「直接対決は0-10」…殴り合いの喧嘩も超えて、“鈍臭い妹”川井友香子がリオ金・梨紗子に追いついた日《レスリング》
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byJMPA
posted2021/08/06 20:30
レスリング女子63kg級で優勝した川井友香子と57kg級で優勝した梨紗子
レスラーとしての歩みも、ウサギとカメに例えていいほどの開きがあった。梨紗子が中3で全国中学生選手権52kg級で優勝しているのに対して、中学までの友香子は全国規模の大会で目立った活躍を見せていない。「姉が通っているから」という単純な理由で、親元を離れ「私も至学館(附属高校)に行きたい」という希望を切り出したとき、母・初江は「やめなさい」と告げた。中3のときに出場して敗れた試合内容が、あまりにも無気力に見えたからだ。
友香子はレスリングが続けられる進学先として至学館しか知らなかったことを明かす。
「レスリングをするには、そこしかないと思っていました」
見ての通り身体能力が高い梨紗子に対して、友香子は「結構鈍臭い。運動神経も良くない」と本人も自覚している。
「だから至学館では、最後のひとりになるまで練習を続けようと心に決めてやっていました」
全日本選手権の直接対決では、「姉10ー0妹」
とはいえ、友香子はひとつだけ梨紗子を上回るものを持ち合わせていた。負けず嫌いという性格である。それは家族の誰もが認めるレスラーとしての最高の財産だったが、他の要素は著しく劣っているがゆえに長い目で成長を見届ける必要があった。
高1のとき、友香子がカデットの国際大会で優勝するなど十代の大会では活躍し始めるが、スポットライトが当たっていたとは言いがたい。
高3の12月にはシニアの全日本選手権で決勝に進出したが、相手が悪すぎた。姉だったのである。梨紗子はテクニックで圧倒して10-0のテクニカルフォール勝ちを収め優勝した。その数カ月前に出場した2度目の世界選手権で梨紗子は2位に輝いている。ウサギの鮮やかなジャンプに目を奪われ、カメのノロノロした歩みには誰も気づかなかった。
2017年から友香子は世界選手権に駒を進めたが、すぐに活躍できたわけではなく8位に終わっている。それでも翌2018年の世界選手権では決勝に進出するなど、世界の第一線で活躍するようになった。