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「“姉妹で金”は無理」「直接対決は0-10」…殴り合いの喧嘩も超えて、“鈍臭い妹”川井友香子がリオ金・梨紗子に追いついた日《レスリング》
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byJMPA
posted2021/08/06 20:30
レスリング女子63kg級で優勝した川井友香子と57kg級で優勝した梨紗子
「ほぼほぼ殴り合いのようなケンカをした」
以前から友香子とは行動をともにする機会が多かったが、コロナ禍になると余計に増えた。昨年春、友香子が至学館大を卒業し、姉が所属するジャパンビバレッジに身を寄せたことも拍車をかけた。
意外にも、この姉妹は普段は一緒に練習しない。日々の練習でお互いアドバイスをすることはあっても、直接肌を合わせるとケンカになってしまうというのだ。筆者が記憶する限り、友香子のオリンピック出場権がかかった2019年の世界選手権、あるいは今回の東京オリンピックの決戦直前くらいしか一緒に練習はしていない。
コロナでいつも通りの練習ができなくなると、いつもは仲のいい姉妹も些細なことで衝突を繰り返した。東京オリンピックでふたりとも優勝を決めた直後、梨紗子は意外な事実を明かす。
「ほぼほぼ殴り合いのようなケンカをしたこともある。自分としてはそれが苦しかったというか、しんどいなと思いましたね」
姉妹で金。言葉で表現することは簡単ながら、それを実現することは用意ではない。過去女子レスリングでは千春と馨の伊調姉妹がアテネと北京でそれに挑んだが、いずれも姉は銀メダルに終わっている。
梨紗子が優勝して笑えたワケ
友香子が優勝できた原動力は、この1年で徹底的にフィジカル強化に励み、外国人選手とあたってもパワー負けしなくなったことに尽きる。
では東京オリンピック前にすでにレスラーとして出来上がっていた梨紗子の場合、最後の一押しは何だったのか。
それは梨紗子の決勝前日に優勝を決めた友香子からの一言だった。
「梨紗子、笑って終わろう」
カメはウサギに追いついた。そしてウサギを励ます立場になった。
梨紗子は頷いた。
「友香子が先に優勝したので、本当に友香子を喜ばせるためには私も勝たないと喜びきれないと思った。ここはとらなきゃと思いながら戦って本当によかった」
ウサギとカメの物語は、これからも続いていくのだろうか。
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