Jをめぐる冒険BACK NUMBER
「ここで点を取ったら“もうひとつ上の上田綺世”に」 五輪直前のケガも選出に感謝…“恩返しになる結果”で決勝への扉をこじ開けろ
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/03 11:03
NZ戦では自ら挙手し、1人目のPKキッカーを務め上げた上田綺世。準決勝以降はぜひ流れの中からの一撃が見たい
チャンスだと選択肢が5枚くらいの写真になって……
例えば、シュートまで持ち込む独特な感覚については、こんな具合だ。
「シュートチャンスのタイミングで選択肢が頭の中に5枚くらいの写真になってバババって浮かぶ。それをパパパっと切り捨てて1枚を選ぶ。その間、0コンマ何秒。ヘディング、トラップ、ファー、ニア、足でワンタッチという選択肢が浮かんだとして、そのうち正解、つまり、ゴールが取れる選択肢がふたつあるとしたら、その5分の2を選べるかどうか」
自身のメンタルについては、こんなふうに語っている。
「僕はFWなので、シュートを打ってナンボ。外すことを恐れてはいけないと思うんですね。どの選手でも、シュートを外し続けたら、打つのが絶対に怖くなると思うんですけど、僕はそれを楽しめるというか。外し続けるのは面白くないけど、そこで自分が焦ったり、普段は感じられないような刺激を受けるのが好きなんです」
2019年6月にはブラジルで開催されたコパ・アメリカに出場し、7月には内定していたプロ入りを1年早め、鹿島への加入を決めた。
プロ入り後は壁にぶつかった時期もあったが、自身を見つめ直す好機と捉え、ポストプレーを磨いたり、シュートレンジを広げたりと、プレーヤーとしての引き出しを増やすことに努めた結果、2020年シーズンはプロ2年目にして10ゴールをマークする。
6月に肉離れ、それでもフランス戦で活躍
東京五輪を控えた2021年シーズンは負傷のために出遅れたものの、ガーナ、ジャマイカと対戦した6月シリーズで2試合連続ゴールを奪い、復活を印象付けた。
ところが……。
思わぬアクシデントに見舞われたのは、6月22日のメンバー発表会見直前のことだった。練習中に足の付け根付近の肉離れを起こしてしまうのだ。
当初は上田自身も「そんなに重いとは思っていなかった」というが、その後の診察で、復帰まで1カ月程度を要することが判明する。
7月5日から始まった事前合宿では別メニュー調整が続いた。段階的にチーム練習に合流し、実戦復帰を果たしたのは17日のスペインとの親善試合の66分。当初の全治期間を考えれば、かなり急ピッチでの復帰だった。
大会が開幕しても南アフリカ戦、メキシコ戦と途中出場が続いたが、フランスとの第3戦でついにスタメン出場にこぎ着ける。
この試合の前半に上田の放った2本の渾身のシュートは、いずれもゴールマウスを強襲。相手GKが弾いたボールを久保、酒井宏樹が決め、日本は2点を先行した。
FWが何かの節目を迎えるときには必ず運が
直前合宿からここまで、上田は何度か感謝と決意を口にしている。
「焦りはないですね。ただ、僕だけの問題でもない。ケガをしているのに選んでいただいて、リハビリ、別メニューをやらせてもらっていることに感謝しているし、すごく光栄なこと。だから、自分が何を残すかが重要」
「僕はもしかしたら出られなかった立場でもある。恩返しではないけれど、僕が入ったことをプラスにできるような結果をもたらしたい」