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「律、お前は天才とちゃうで」「やることはガンバと全く一緒やねん」中学生の堂安や谷晃生、林大地を育てた名伯楽が語る秘話と今
posted2021/08/03 06:01
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph by
JFA/AFLO
ニュージーランドとの120分間の激闘を終え、PK戦に突入したU-24日本代表。かつてガンバ大阪のジュニアユースで家長昭博、宇佐美貴史ら数々の日本代表を育て上げて来た鴨川幸司さん(現FCティアモ・アカデミーダイレクター)は、テレビの前で一抹の不安を感じていたという。
今大会のメンバーのうち堂安律と林大地、そして谷晃生の3人は多感な中学生時代に鴨川さんが指導した選手である。癖のあるサッカー小僧でもあった宇佐美をして「あの人から発せられる言葉の中に意味がないものはないと、中学生ながらに思っていたので常に耳は傾けていました」と言わしめた鴨川さんは、厳しさも併せ持つ指導者だ。
谷は「1回も怒ったことないないんとちゃうかな」
鴨川さんの教え子は誰もが一度は雷を落とされた経験を持つなか、谷だけは例外だったという。
「アイツは、空気を読む奴で、俺に怒られる前に火を消すのがすごく上手いし大人びてたね。一回も怒ったことがないんとちゃうかな」
しかし、空気を読むことは得意な少年が唯一苦手としていたのがPKのコースを読むことだった。
「大事な公式戦ではなかったけど、何回か晃生はPK戦で負けてたし、勝負弱いところもあってん。アイツのスケール感からしたら、ちょっとそこは気になるところやったね」(鴨川さん)
ニュージーランド相手に、殊勲のPKストップを見せた谷のプレーを見た名伯楽は「あの当時から色々な経験を積んで来たし、もう当時とは違うんやね」と感慨深げに呟いた。
神戸でのスペイン戦、堂安の両親から受け取ったチケット
鴨川さんにとって、コロナ禍の中で行われている東京五輪は、指導者冥利に尽きる大会だ。
「ラッキーやったというか、こういう選手たちが若い時代に一緒に過ごせたのはなかなか凄いことやなって」
東京五輪の開幕を目前にした7月17日。ノエビアスタジアム神戸で行われたスペイン代表戦には、鴨川さんの姿があった。堂安の両親が用意したチケットを手に。