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侍ジャパン初戦のドミニカ戦、“薄氷の勝利”のウラにあったベンチの「2つの判断ミス」とは?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byGetty Images
posted2021/07/29 12:10
チームの指揮をとる稲葉監督(中)と金子ヘッド兼打撃コーチ(左)
この回先頭の山田が四球で出塁して、坂本の打席。ここでセットが1.6秒とモーションが大きいマウンドのホセ・ディアス投手に対して盗塁などで揺さぶることなく、あっさり送りバントを選択したことは仕方ないとしよう。しかし坂本がきっちり送った1死二塁から吉田の左前安打で山田が本塁に突っ込んで憤死したプレーが2つ目の疑問符だ。
一か八かのバクチを打つ必要があったのか
三塁コーチャーの清水雅治外野守備走塁コーチがなぜ回したのか。三遊間で弾んだ打球に走者の山田は一度、止まりかけて再びスピードを上げて走り出した。タイミング的にはかなり微妙で、しかも打順は4番の鈴木誠也外野手(広島)から浅村、柳田と続いていく。
ここで果たして一か八かのバクチを打つ必要があったのか。
硬さが見えたのは選手だけではなかった。こうして試合を振り返ると、ベンチを支える首脳陣にもいつもと違う緊張感が見え隠れしているのは、五輪という大舞台の初戦ゆえのものだったと思いたいところである。
「侍ジャパンはいつも初戦が重たくて、強化試合でも初戦は負けるし、ベネズエラのときもプレミア(2019年のプレミア12大会)のときもそうだった。慣れたらいけないけど、そういう雰囲気から解消されるのには少し時間がかかるのかなって」
こう語ったのはコーチ陣のまとめ役でもある金子誠ヘッド兼打撃コーチだった。
「人数が24人という中でやると言うのは初めてだったので、今日は勝ちにつなげることができましたけど、終盤での選手起用と言うのは非常に我々もやっていく中で議論もしましたし、そこの難しさを感じました」
試合後に稲葉監督はベンチ入りメンバーが通常より1人少ない五輪の難しさをこう語っている。
他チームの2番手、3番手の投手は必ず質が落ちる
ただ逆に言えばメジャーリーガーが参加しない五輪では、トップ選手を揃えた日本の一番のアドバンテージは、24人の選手全員のレベルの高さにある。ある意味、寄せ集めの他チーム(韓国はちょっと違うかもしれないが)は、2番手、3番手で出てくる投手は必ず質が落ちることは、プレミア12などで経験してきたことでもあるはずだ。必ず終盤に得点チャンスはやってくる。あとはどう選手の状態、コンディションを把握して、ベンチがどう臨機応変に起用できるかなのである。
世界一に輝いた19年のプレミア12で、稲葉監督は予選から8試合で8通りのオーダーを組んだ。おそらくこの五輪の戦いも、不動のオーダーには拘らず、そうして選手の調子を見ながら柔軟に動くことがポイントになるはずだ。
初戦は最後は選手に助けられた。しかし金メダルを獲るためには、ベンチワークのミスは命取りとなり、そして稲葉監督のタクトが大きなカギを握る。そのことは紛れもない現実でもある。
31日のオープニングラウンドの残るメキシコ戦で、いかに首脳陣がいま現在のチーム状況を的確に把握し、どうチームを機能的に動かせるようになるか。勝負のノックアウトステージに向けて、そこが第2戦とこれからの戦いのポイントとなる。