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“ロンドンでの惨敗”から9年、柔道男子はなぜ復権できたのか…高藤直寿が優勝直後に井上康生監督に“謝罪”した理由とは
posted2021/07/28 17:03
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
7月27日、柔道男子81kg級で、永瀬貴規が金メダルを獲得した。柔道初日の60kg級、高藤直寿に始まり、66kg級の阿部一二三、73kg級の大野将平、そして永瀬と4階級で金メダルが続いている。1988年のソウル五輪で7階級制になってから、初めての快記録だ。
2012年のロンドン五輪では金メダルなしに終わったのを思えば、隔世の感がある。
9年前とのこの違いはどこから生まれたのか。
根幹は、2013年に就任した井上康生監督にある。
高藤は優勝を決めたあと、井上監督に謝罪した。
「いろいろご迷惑をかけてすみませんでした」
象徴的な言葉だった。
その意味の前に、井上監督が就任する前の日本代表と就任してからの取り組みを振り返りたい。
選手と首脳陣が信頼し合えなかったロンドン五輪
ロンドン大会で金メダルを獲れなかった日本だが、実は大会の前から問題が伝えられていた。選手と首脳陣との信頼関係の不足だ。
例えば、故障を抱えているときであっても合宿への参加を求められ、断ることはできず、選手とその周囲の関係者に不満が生まれた。いざ合宿に参加すれば、「気合いでなんとかなる」といった姿勢で、コンディション面への考慮はなされなかった。国内外の大会への参加も頻繁に求められ、「ここは出なくても」と考える大会でも出ざるを得ないことがあった。
しかも大会で優勝できなければ、会見などでけなしていると捉えられても仕方ないくらいの批判が選手に向けられた。選手を鼓舞する意図からだったかもしれないが、必ずしもそう受け取ることができない選手もいた。
そうした首脳陣と選手の関係が成績として浮き彫りになったのがロンドン五輪であった。