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〈出産・育児と並行してブラジルで男子柔道を指導〉藤井裕子監督と愛弟子が涙の銅メダル… 2人に聞く“阿部一二三らとの激闘と信頼関係”
posted2021/07/28 11:03
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
Agencia EFE/AFLO
「ダニ、ヴァイ!ヴァイ!」(ダニエル、攻めろ!攻めろ!)
監督席から、甲高い声が飛んだ。
7月25日、日本武道館。柔道男子66kg級の3位決定戦で、ダニエル・カルグニン(ブラジル)がバルッチ・シュマイロフ(イスラエル)と対戦。大腰で技ありを奪い、銅メダル獲得を目前にしていた。
試合が止まる度、カルグニンは監督席を見る。白いマスクをした監督は、身を乗り出して指示を送る。カルグニンが、小さく頷く。
試合時間が、残り30秒を切った。21秒、13秒……。そして、試合終了の銅鑼が鳴った。
カルグニンは両手を広げ、感極まった表情で天井を見上げる。しゃがみ込み、顔を両手で覆う。シュマイロフと向き合って、お辞儀。それに合わせてポニーテールの監督も畳へ向かってお辞儀をし、審判席へも丁寧に頭を下げる。それから、両手で顔を覆い、上半身を深く折り曲げた。
2人とも涙を流しながら……
カルグニンは、シュマイロフと握手をして別れてから、泣き顔になった。
畳から降りて、監督と固く抱き合う。2人とも顔を大きく歪め、涙を流しながら、短い言葉を交わす。それから、また抱き合う。監督が、右手でカルグニンの背中を二度、三度と叩く。まるで「よくやったね」とでも言うように……。
23歳のカルグニンが、五輪初出場で銅メダルを獲得した。彼と抱き合って嬉し涙を流したのは、ブラジル柔道男子代表の藤井裕子監督(愛知県出身)である。悲願を達成したカルグニンは書面インタビューで、ブラジルでの出産・育児と並行して柔道を指導する藤井監督は試合日の深夜に電話インタビューに応じてくれた。
――大会前、カルグニン選手は「初出場の夢の舞台で、メダルを目指す」と語っていた。それが実現しました。
カルグニン:6歳で柔道を始めてから、この日をずっと夢見てきた。まだ現実感がない。
――試合後、2人で抱き合って泣いていました。