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「日本サッカーで100m走をやったら一番速そうな選手は?」岡崎慎司も吉田麻也も堂安律も指導した“元陸上選手”に聞く
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byGetty Images
posted2021/07/03 17:01
ドイツ2部ザンクトパウリを退団した宮市亮(28歳)。50m5秒台の記録を持つとも言われる
「長谷川健太と言えば、サッカー界のスーパースターです。そんな人が、なぜわざわざ浜松大で監督をやっているのかと。ここには、何か特別なものがあるのかもしれない。浜松大にいれば、この人と一緒に仕事ができる可能性があるかもしれないと思ったんです」
杉本は陸上部を指導しながら、サッカー部の練習や試合に足繁く通った。長谷川と会話する機会も増え、自身の経験と理論を伝えた。その結果、サッカー部のフィジカルアドバイザーを兼任することが決まった。
「たまたま健太さんが“良い選手は走りが綺麗だ”“自分自身も走り方が綺麗だったら、もっと長く現役を続けられたんじゃないか”という考えの持ち主だったことが、良かったのだと思います」
「陸上選手は進路の選択肢が少なすぎる」
2005年、長谷川は浜松大サッカー部監督を退任し、清水エスパルスの監督に就任した。新指揮官の誘いを受けて、杉本も清水のフィジカルコーチとなった。この時に、高卒新人選手として清水に加入したのが、岡崎だった。杉本は言う。
「陸上選手として日本のトップを争った人間が、自分の種目に固執せず、他の競技に行くのは初めてのケースだと思います。僕は、このチャレンジに魅力を感じたのと同時に、陸上選手にとっての引退後のロールモデルになるチャンスだとも思ったんです。陸上の場合、プロ選手はほとんどいません。引退後、実業団の選手ならば会社に残るか、指導するにしても環境が限られる。大学生の場合は、卒業後の進路の選択肢があまりにも少なすぎる。陸上を一生懸命やって、いろいろなロジックを理解できれば、他の競技にも応用できるよ、ということを見せられれば、今の若い選手たちの可能性にもつながるんじゃないかと考えました。
僕は、自分でやりたいことがあるのならば、自分からアプローチしなければダメだと思います。ただし、受け入れてもらえなければどうしようもない。上から目線で『俺を雇えよ』ではなくて、誰に受け入れてもらうかを自分で選ばなければならない。陸上選手にとって、いきなりJリーグやプロ野球に接点があるかと言えば、なかなかない。他競技の人間でも受け入れてくれるマインドを持った人を見つけられるかが重要です。僕は、浜松大の土のグラウンドで指導するスーパースター、長谷川健太を見つけることができた。“この人は、何かを持っている”という勘が、結果的に当たりました」