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「日本サッカーで100m走をやったら一番速そうな選手は?」岡崎慎司も吉田麻也も堂安律も指導した“元陸上選手”に聞く
posted2021/07/03 17:01
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Getty Images
以前、サッカー日本代表キャプテン吉田麻也の「走り」を鍛える自主トレーニングに、特別参加させてもらったことがある。30mほどをダッシュする練習の途中、コーチからこう言われた。
「お尻を前に出す意識で!」
この一言だけで、随分とスムーズに体が前へ進む気がした(運動不足のアラフォー編集者による勘違いの可能性もありますが……)。
金言をくれたのは、杉本龍勇さん。バルセロナ五輪陸上男子100mに出場し、4×100mリレーではアンカーを務め、6位入賞した名スプリンターだ。現役引退後は、陸上のみならず、サッカー、ラグビー、野球など、さまざまな競技のアスリートに「走り」を指導してきた。日本代表歴代3位の通算50ゴールを決めている岡崎慎司の専属コーチとしても有名だ。発売中のNumber1030号「走る」では、足の遅さに悩んでいた岡崎が、いかにして俊足ストライカーに変身したのかを紹介した。現在では、岡崎の変貌ぶりを目の当たりにした吉田、宮市亮、堂安律らも、杉本の指導を受けている。
名スプリンターがサッカーに出会うまで
かつての名スプリンターが、なぜ畑違いのフットボーラーを指導するのか。そのきっかけは、現役時代のドイツ留学だった。
「ドイツでお世話になっていたコーチが、陸上の専門家でありながら、ブンデスリーガのヘルタ・ベルリンのフィジカルトレーニングについてアドバイスしていたんです。そのほかにも、近代五種やハンドボール、バスケットなどのドイツ代表チームのフィジカルトレーニングを組み立てていた。彼の仕事ぶりを見ていた時に、『あ、日本に帰って指導者になれるのなれば、陸上出身の人間が陸上選手を指導するんじゃなくて、他種目の選手も見れたら、きっと楽しいだろうな』と思ったんです。日本にはそういう人がいなかったので、時代を作れるかなというマインドもあって」
杉本は2000年に現役選手としての第一線を退き、浜松大学陸上部の監督に就任した。新設されたばかりの部だから、日本のトップを争うような学生はほとんどいない。それでも浜松大に惹かれた理由の1つが、各部の監督リストにこの名前を見つけたからだ。
サッカー部監督=長谷川健太