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田中将大の帽子にある“見えない保険”…「192キロ」の打球直撃から投手を守るヘッドガード秘話【米開発者を独占取材】
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph bySankei Shimbun
posted2021/05/15 06:01
今季から楽天に復帰した田中将大。メジャーでの経験を踏まえて、帽子の中にヘッドガードを取り付けている
サイズについても、さまざまなパターンを試してみた。
「私は当初、前頭部から後頭部までカバーしようと考えていました。でもその長さでは、どうしても帽子にフィットしない。そこで原点に立ち返り、どこに打球が当たるか過去の事例を調べることにしました」
地道なリサーチの結果、後頭部までカバーする必要がないことがわかった。
「右投手なら右前頭部から側頭部にかけて、左投手ならその逆。そこにほぼすべての打球が当たっていたからです」
この結果を受け、プロXは“19×10センチ”の楕円状に落ち着いた。重さはわずか50グラム。非常に小さく軽いため、「投球に集中できる」という嬉しいメッセージも田中から届いたという。
プロXは一見、簡単に折れそうな薄さだが、マイヤー氏は強度に絶対の自信を持っている。それは“リブ”というあばら骨状の凹凸を施しているからだ。
「守るべき部分がわかったことでサイズが決まりましたが、表面の形状には悩みました。その中で出てきたのが、我々がリブと呼ぶ形状です。この凹凸があることで衝撃が分散され、割れる心配はまったくありません」
素材とサイズ、そして形状が決まり、試作品ができあがると、マイヤー氏はひたすらテストを繰り返した。
プロXをつけたマネキンに、96キロから149キロの硬球を何度もぶつけ、その衝撃を計測。プロXを着用すると、つけないときに比べて衝撃が約50%低減するというデータが得られた。
7年もの時間を費やした普及活動
こうして14年、晴れてプロXが市場に出ることになったが、決して大きな反響があったわけではないという。
「この商品を初めて見た人の多くは、“これはなんだ?”と首をかしげていました。無理もありません。過去になかった商品ですから。その後の7年間は、“なぜプロXが必要なのか”を伝えることに費やされたといっても過言ではありません。というのも大ケガが起きない限り、プロXの重要性が認識されることはないですからね。しかもこの2年はコロナ禍で多くの球団が緊縮財政を強いられているので、新しい道具を購入する余裕はないのです」