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田中将大の帽子にある“見えない保険”…「192キロ」の打球直撃から投手を守るヘッドガード秘話【米開発者を独占取材】
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph bySankei Shimbun
posted2021/05/15 06:01
今季から楽天に復帰した田中将大。メジャーでの経験を踏まえて、帽子の中にヘッドガードを取り付けている
選手の身体能力が向上することで投手の球威は増し、それに比例して打球速度も上がっている。
今年4月12日、エンゼルスの大谷翔平が7回に放った二塁打の打球速度は、今季メジャー最速となる192キロと報じられた。バットの芯で捉えた打球が、投球速度を超える速さで投手を襲えば、これを避けるのは難しい。
実際にメジャーの公式戦では打球の直撃によってケガをする投手が、1年にふたりほどいるという。日本人投手では、2002年に石井一久が頭蓋骨を亀裂骨折。2009年には黒田博樹が3週間ほど戦線離脱を余儀なくされた。
こうしたリスクに、投手たちも無策だったわけではない。
2014年、当時パドレスのアレックス・トーレスが打球から頭部を守るために開発された特殊帽をかぶり、マウンドに上がった。だが、緩衝材を内蔵した帽子はあまりにも大きく、投球の邪魔になることもあって浸透しなかった。そのコミカルな外見は、“スーパーマリオ”と揶揄されたものだ。
マイヤー氏も経験した“打球直撃”
SSTのマイヤー氏がプロXを考案したのも、実は自身が投手をやっていて打球が直撃した痛い経験があるからだ。
「14歳のころ、強烈な打球がヒザを直撃し、直後頭部に当たったことがあります。あのときは気を失い、マウンドに倒れ込みました。あのときから、いつか投手用のプロテクターを作りたいと思うようになったのです」
マイヤー氏は2011年から開発を始め、3年の試行錯誤を経て、プロXの完成にこぎつけた。
「私がもっとも重視したのが、プロテクターをつけているのを忘れるくらいのフィット感。そのために薄さと軽さにこだわりました。強度を上げようとすると、どうしても素材が厚く重いものになってしまう。強さと薄さ、軽さを満たすのは容易ではなく、強度の計算や素材探しに時間がかかりました」
素材は航空・宇宙分野にも応用されるカーボンファイバーと、防護服にも使用されるケブラー繊維の複合素材に落ち着いた。複合素材の本体と頭部が接する面には、緩衝材となるポリウレタンのパッドがつけられている。