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「ピッチには労働者も演技者もいらない」大木武vs安間貴義、師弟対決で響いた時間稼ぎする選手への怒声 

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渡辺功

渡辺功Isao Watanabe

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photograph byJ.LEAGUE

posted2021/05/13 17:01

「ピッチには労働者も演技者もいらない」大木武vs安間貴義、師弟対決で響いた時間稼ぎする選手への怒声<Number Web> photograph by J.LEAGUE

ヴァンフォーレ甲府時代にタッグを組んだ大木監督と安間コーチ(写真は2006年)

 岐阜のコーチを務めるのは仲田建二と田森大己。いずれも現役時代、大木のもとでプレーしたことがあるふたりだ。このあたりにも時の経過と人の縁が感じられる。

 先にチャンスをつくったのは、ホームの岐阜だった。開始3分、5分と、いずれも相手の高いDFラインの裏を取り、左サイドからクロスを入れていく。だからといって、熊本に下がる様子は微塵もない。どちらも選手の出足が鋭く、球際は激しいがラフではなく、簡単に試合が停まらない。攻守の切り替えも速く、ゴール前からゴール前まで、両チームの選手とも全力疾走。最後は身体を投げ出して、相手のシュートを防ぎにいく。

 両監督とも髪には白いモノが目立ち始めたが、何を大事にすべきなのか。本質的なところは変わらない。

 らしさがあふれていたのは、36分のシーン。ファウルを犯した熊本の選手が、自分たちの守備陣形が整うまで岐阜のリスタートを遅らせようと、FKのポイントからボールを抱えて、自陣深くまで走り始める。と、そのときピッチに向かって、熊本ベンチから怒声が飛んだ。

「余計なことすんなっ!!」

 驚いたように第4の審判が振り向くと、声の主は大木だった。

「選手に要求するのは『プレーすること』。サッカーはプレーヤーがするもので、ピッチには、ワーカー(労働者)もアクター(演技者)もいらない」の信念のもと、不要なファウルやラフプレー、シミュレーション、道理のない審判へのアピールなどを忌み嫌う大木武の真骨頂だった。

 両チームを通して最大の決定機は49分。最終ラインからの縦パスに反応した岐阜のFW川西翔太が裏へ抜け出す。が、右に持ち出してのシュートは、熊本GKで甲府在籍時に大木・安間の指導を受けた佐藤優也に弾き返された。

「相手の最終ラインに対して、最後のパスを通すことはできるようになったが、そこでつくった決定機を決められるか。そこで決め切る大胆さが勝負を分ける。逃げずに続けるしかない」(岐阜・安間監督)

 先制点はセットプレーから。79分、熊本の順天堂大出身ルーキー杉山直宏の左足から枠を捉えたFK。こぼれ球にいち早く反応した浅川隼人がゴールに蹴り込んだ。岐阜にとってマイナスだったのは、直前の接触プレーでプロ14年目のボランチ本田拓也が、ピッチの外で治療中だったこと。単純に人数の問題で「こぼれ球で、人が足りなくなる」(岐阜・柏木陽介)だけでなく、最も経験豊富なベテランの声掛けや引き締めがあれば、また違ったのかもしれない。

【次ページ】 安間が口にした大木の熱量

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