しかし、少しずつ会話ができるようになると気持ちが落ち着きだし、毎回違うことを話せるようになった。休むことへの罪悪感がなくなり、徐々に睡眠欲と食欲が出てきて、周囲の景色を楽しめるほどに心の余裕を取り戻した。

「先生と話をしていく中で、いろんな話ができるようになって、陸上というよりは社会人としての自分と、将来について考えるようになりました。気持ちも楽になって、その時に久しぶりに『走ってみようかな』って思えたんです」

今年の1月、大きな決断へ

　症状が改善したと感じられたのが12月。そして、今年の1月、4カ月半ぶりに復職し、大きな決断を下した。

「引退を決めて監督と話をしました。実業団は結果を求められる場所。結果を出せていないし、足の症状も完治していない。3年間いろいろやってきたけど何も変わらなかった。気持ち的には、けっこうスパッと決断できました」

　恩師の大八木監督には電話で引退を報告した。長くは話さなかったが、一言「落ちついたら（駒大に）来いよ」と声をかけてくれたという。

©Yuki Suenaga

3年前の箱根駅伝7区も「結構、割り切れてはいる」

　4月から新しい部署で働いており、仕事を覚えるのは大変だが充実した毎日を送っている。これからは、仕事とともに「セカンドキャリア」というテーマにも積極的に情報を発信していきたいという。

「セカンドキャリアって、自分の中ではマイナスのイメージがありました。だけど、実業団で3年やってきて社業に専念することで、僕も“セカンドキャリア”を歩み始めたわけです。だからこそ、この経験を活かして、セカンドキャリアに不安を持っている人や実業団での活動に不安を持っている人のために情報を発信して、お手本の一つになれればいいかなって思っています」

　3年前の箱根駅伝の出来事も、今は「結構、割り切れてはいる」と話す。とはいえ、思わぬアクシデントに見舞われて走れなくなってしまった選手が、その経験に苦しむケースは少なくない。そんな「選手の助けになれたなら」とも考えている。

「学生のうちに、あれだけたくさんの人から注目される大会でブレーキしてしまって、その後に引きずってしまう子たちの気持ちはすごくよく分かる。だからこそ、その経験を糧に変えられる手助けがいつかできたらいいなと思います」

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