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<ウイグル問題>北京五輪ボイコット論で思い出す 「41年前モスクワ五輪の悪夢」“不参加”を決めたJOCの悲しい本音 

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近藤正高

近藤正高Masataka Kondo

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posted2021/04/24 11:01

<ウイグル問題>北京五輪ボイコット論で思い出す 「41年前モスクワ五輪の悪夢」“不参加”を決めたJOCの悲しい本音<Number Web> photograph by KYODO

モスクワ五輪、男子1500メートルで優勝したセバスチャン・コー(イギリス)のゴール。サッチャー首相の勧告に反し、イギリスの選手たちはモスクワ五輪に参加した

 柴田は本心では、選手たちをモスクワに連れていきたいと考えていた。そのために選手団ではなく選手やチーム個別での参加や、メダルの期待できる選手に限った少数精鋭の派遣など参加の抜け道も探っている。しかし、結果的にJOCは、ナショナル・エントリー(各国の国内オリンピック委員会=NOCによる参加申し込み)締め切りの前日、1980年5月24日の臨時総会で不参加を決定する。

 この日、JOC総会に先立ち体協が臨時理事会を開き、「JOCのナショナル・エントリーに反対する」と決議していた。このとき、政府から伊東官房長官も列席し、改めて政府見解を述べたあとで決議が行われるという異例の事態となる。

 なお、このときの決議では、当時、体協の副会長だった田畑政治も不参加に賛成した。一昨年の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の主人公にもなった田畑は、モスクワ五輪が問題になったころ、新聞紙面で《昔はたとえ戦争中でも、オリンピック期間中は停戦したんだよ。現在のものだって、クーベルタンの提唱で平和運動の一つとして開かれてきたんだ。それがどうだ。オリンピックを開こうという国が、よその国に兵隊を出して戦争してるんだから。そんなところにわれわれの代表(選手団)を送る必要はない》とコメントしていた(『朝日新聞』1980年2月3日付朝刊)。

賛成29vs反対13「政府が干渉してきたということだ」

 話を元に戻すと、体協の理事会に続き開かれたJOCの臨時総会では、各競技団体から選出された委員と学識経験委員、また国際オリンピック委員会(IOC)の委員である清川正二(当時IOC副会長)らも出席して、激しい議論が交わされた。そこでは、学識経験委員として出席した大西鐵之祐(元ラグビー日本代表・早大ラグビー部監督)が《今日の問題は、体協ならびにJOCの日本の将来のスポーツに関する政策の根本問題について、政府が干渉してきたということだ》と発言したところ、体協会長でJOC委員でもあった河野謙三が《でたらめを言っちゃいかんよ。政府が何を干渉したんだよ》と怒る一幕もあった(前掲、『五輪ボイコット』)。

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