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早稲田ラグビー復活の立役者・相良南海夫はなぜ3年間、「与えない」と「部活動に戻す」を徹底したのか
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2021/04/16 17:01
昨年度限りで早稲田ラグビー部監督を勇退した相良南海夫氏。充実した笑顔を浮かべながら3年間を振り返った
現在はトップリーグでプレーしている選手が、こんなことを話してくれたことがある。
「2年生まではウェイトルームも、レギュラー優先でした。相良さんが来てからは、全部員、平等になったんです。レギュラー組からすると不便になったともいえるんですが、それが監督の姿勢なんだと理解しました」
1999年度、日本におけるラグビーのルーツ校である慶応が成し遂げた「創部100周年」での優勝は、早稲田にもプレッシャーとなっていた。そのアプローチとして、能力の高い選手に資源を投下する戦略を採ったわけだが、歯車が狂い出していた。
関係者に取材すると、いわゆる「一本目」の強化に注力した結果、部として尊重していた学生自治の空気が失われていった。また、同じ学年であっても、レギュラークラスと公式戦に出るチャンスのない選手との間には交流が失われていた。
相良監督はこの体制を変えようとした。
「教育機関である大学のクラブですから、公平性、機会の均等が担保されるのは大前提です。もちろん、誰もが納得するような運営は不可能でしょうが、早稲田には大学選手権で優勝したら全員で『荒ぶる』を歌うという伝統があります。4年生の秋に、試合に出るチャンスが減っていく現実を目の当たりにしても、最後までラグビーをやり切り、そして応援できる仲間を得てこそ、納得して『荒ぶる』が歌える。また、レギュラーの選手たちも、周りの仲間の応援があってこそ奮い立つことが出来る。そうした雰囲気を作りたかったですし、満点は無理ですが、1年ごとにそうした風土が戻ってきたという手ごたえはありました」
11年ぶりの『荒ぶる』
1年目は対抗戦で優勝し、2年目には早明戦では敗れたものの、新国立競技場で行われた大学選手権決勝では、前半に先制攻撃を仕掛け、宿敵の明治に快勝。11年ぶりの『荒ぶる』がスタジアムに響いた。
「このシーズン、SHには齋藤直人(現・サントリー)、SOの岸岡智樹(現・クボタ)、CTB中野将伍(現・サントリー)に長田智希(現・4年生主将)、WTBに古賀由教(現・リコー)、FBに河瀬諒介(現・4年生)とタレントが揃っていたので、『このメンバーで勝てなくて、いつ勝つんだ』というように見られていたので、この時ばかりは安堵感がありました」
連覇を狙った3年目はコロナ禍の中で難しい運営を強いられた。それでも大学選手権決勝までたどり着き、結果的には天理大の迫力の前に敗れたが、その後の記者会見では、「この3年間で学生たちからの“意欲”が見えてきたのが収穫だと思っています」と振り返った。
【後編へ続く】相良監督が「大きかった」と話す2人のコーチの存在、齋藤直人ら歴代主将にかけた言葉とは…
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